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2025.10.30
COLUMN / ADVANCED TECHNOLOGY

TIMの評価基準、熱伝導率だけでは語れない。実環境で差がつく、BLTと熱抵抗率

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スマホ、自動車さらに問題になっているAI、データセンターなどのHPC(High Performance Computer)において、サーマルマネジメント、冷却、放熱は大きな課題です。
特にAIやデータセンターの普及に伴い、世界的に電力消費量が急増しています。その内訳を見ると、計算処理に使われる電力だけでなく、冷却のために全体の30~50%もの電力が使われていると言われています。
このため「いかに効率的に熱を逃がすか」が大きなテーマとなり、その解決に不可欠なのが TIM(Thermal Interface Material)です。
前回の記事~Thermal Interface Material | 放熱材料評価方法の課題と解決策~では放熱、TIMについて触れましたが、今回はTIMの評価軸に関して、つまりTIMを評価するのに最も有効なデータは何か、筆者なりに考察を行ってみました。

ASTM D5470-17による評価方法

TIM評価において唯一定義されている規格がASTM D5470-17です。

ASTM D5470-17では、熱伝導率という用語は均質なバルク体に用いられるものであり、TIMは異種材料の複合体であるため、見かけの熱伝導率だと述べています。

測定方法のポイントは以下の通りです。

 

・定常法を用いること。つまり均質なテストブロック(例えば銅、アルミなど)にサンプルを挟み、温度勾配を設け、そこに流れる熱流W(Q)、温度差⊿Tから熱抵抗を算出。

・材料の接触抵抗、つまり界面熱抵抗率mm²K/Wを求めるため、そのブロックを平行に保ち、接触面の粗さを0.4μm以下にすることを定義。

・測定温度は特定していないが、指定が無い場合はサンプル温度を50℃、圧力(荷重)については接触抵抗が取れる程度、厚み(BLT=Bond Line Thickness)は最低でも3点以上で行うこと。

・熱伝導率W/m・Kは下記式より求められる。

 

Rtheff:実効熱抵抗 (K/W)
λbulk:熱伝導率 (W/m・K)
A:面積 (mm²)
BLT:サンプル厚み (μm)
Rth0:界面熱抵抗 (K/W)

測定図1
測定図2

 

ASTM D5470-17での定常法では、ヒーターおよびテストブロックがデバイスにおける発熱体、クーラー側のテストブロックはヒートシンクになっています。これにより、接触抵抗(界面熱抵抗)を含めた測定、つまり実際にTIMが使われるであろう状況と同じ状態で測定ができます。

より実環境に近い状態での測定を行い、TIMに求められる最も重要な役割である「接触抵抗、界面熱抵抗を下げられているのか?」を比較することができる測定法と言えます。

 

「熱伝導率が高い」とはどういうことか?

図のプロットに赤線を追記してみました。

(赤線の方が熱伝導率が高い)

TIMA図1

D5470の考察から、熱伝導率が高いというのはどういう状態かを考えてみます。

熱抵抗とBLTをプロットすると、傾きの逆数が熱伝導率W/m・Kなので直線の勾配が寝た状態となります。つまりBLTが大きくなっても熱抵抗が上がりにくい状態と理解できます。

ですが、前回の記事で熱・熱の移動について触れたように、熱は硬いもの(格子運動)により移動するため、隙間、空気が存在すると熱の移動は妨げられます。

そのため、発熱体とヒートシンクの隙間を埋め空気を排除するために、柔軟性のあるTIMを使用して、接触抵抗、界面熱抵抗を抑えるのです。

つまり、熱伝導率だけでTIMの性能を評価すると、矛盾が生じてしまう場合があります。

これはより硬く熱伝導率が高い材料(例えばヒートシンク銅など)を想定していますが、この場合、接触面に空気が含まれるため界面熱抵抗が十分に下がらず、実際の放熱性能は低くなってしまうことがわかります。

実環境で差がつくのはBLTと熱抵抗!!

図に青線を追加してみました。

では性能のいいTIMとは何かを考えてみます。
重要なのは、実デバイスでどんなBLTで使用するかと、その時の熱抵抗をいかに下げるかです。熱の移動の邪魔を減らし効率よく逃がせることが性能の指標になります。

熱伝導率で見ると赤線のTIMは熱伝導率の数値では高いですが、実際の熱抵抗は高いため、放熱性能としては不十分です。
熱抵抗はBLTに比例するため、TIMとしてはBLTが薄く、かつその時の熱抵抗を下げることが重要だと理解できるかと思います。

ここで、青線のように同じBLTで比較してみると、熱伝導率が低くても熱抵抗が低くなるTIMの方が、実際の放熱性能は上だと考えられます。よって、実際に使用するBLTと熱抵抗率をセットで比較することがTIMの評価基準として最適ではないかと考えます。

あるBLTにおける熱抵抗は必ず界面熱抵抗を含んだ値になるため、界面熱抵抗、接触抵抗を下げることがTIMの役割として重要であることも理解頂けるかと思います。

 
もちろんTIMに求められる性能は界面熱抵抗を下げるだけではなく、さらに様々な役割、各材料の熱膨張CTEに対する長期信頼性ポンプアウトetc.耐熱性、絶縁性、ハンドリング性…かなり多くの機能をHPCなどの大面積化も含めて求められています。
TIM性能の基本評価軸は使用されるBLTとその時の熱抵抗で行うことで熱伝導率では放熱性能比較出来なかったことがクリアになるのではと考えます。
その上で使用されるデバイス、環境に応じバランスの取れた(コストも)TIM開発、選定を行って頂ければと考えています。
 
今後の記事では、「TIMに求められる性能」や、「実際の使用環境に近い評価方法の事例」について、さらに掘り下げてご紹介していきます。
引き続き実際のデバイスにおける放熱課題の解決に役立つ情報をお届けしていきますので、ぜひご期待ください。

TIMの放熱性能評価、サーマルマネジメントに最適なTIMA5

Thermal Interface Material Analyzer TIMA®5は、TIMなど熱伝導材料の界面熱抵抗率(mm²・K/W)、熱抵抗率(mm²・K/W)、熱伝導率(W/m・K)が測定可能な装置です。

 

TIMA®5の特徴

・ASTM D5470に完全準拠

・より正確な界面熱抵抗率の算出が可能

・サンプル厚み1μm~、荷重±1N~自由に制御、モニター

・ポンプアウト現象などに対応した信頼性、寿命試験などが行えるサイクリングコントロール機能

ゲル、シートなどの放熱材料(TIM)の厚み、圧力制御を行い、さらにサイクル試験を行うことでの電子部品の熱収縮におけるギャップ変化から起こるポンプアウトなどの現象を再現し測定することが可能です

・豊富なテストヘッド

□10~25.4㎜ φ13~25.4㎜ 銅とアルミの両方をご用意

・実物のIC回路と同形状チップでの発熱、温度計測を実現したTTVチップを用いて放熱特性評価が可能なTTV(Thermal Test Vehicles)システム

 

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