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2024.05.28
CASESTUDY
現状の熱伝導率測定は実デバイス、TIM評価に合っていますか?

Thermal Interface Material(サーマルインターフェースマテリアル) | 放熱材料評価方法の課題と解決策

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スマートフォン、LED、高出力半導体レーザーなど、AI技術を処理するような半導体デバイスは小型化、高性能化が進んでいます。そのため狭いエリア(部品)に大容量の電気エネルギーが投入され、急速な発熱を伴い、本来の能力を発揮することができない、半導体チップの寿命が短くなるなどの影響があります。
また、BEVに代表されるようなデバイスは、パワー半導体、LIBに大量の電流が印加されるため大きな発熱が伴います。その熱を制御することが電費向上に大きく影響します。このような理由から放熱対策はますます重要となっています。
そこで放熱対策としてTIM(Thermal Interface Material)の需要が増えていますが、TIMの評価方法にはさまざまな課題があります。本記事ではTIMについて詳しく解説するとともに、実製品に近い状況でTIMの放熱性能評価が可能な装置、TIMA5について紹介します。

Thermal Interface Material(サーマルインターフェースマテリアル)とは

Thermal Interface Material(サーマルインターフェースマテリアル)とは

Thermal Interface Material(サーマルインターフェースマテリアル、略してTIM)とは、電子機器の内部で発生した不要な熱を効率よく放熱するために部材間に挿入される熱伝導性材料のことを指す用語です。一般的にはIC(集積回路)などの発熱体とヒートスプレッダーやヒートシンクといった放熱部品の間に挿入する形で使用されます。

ICやヒートシンクなどの放熱器の表面は見た目に平らに見えても、ミクロに見ると表面のわずかな粗さが存在します。そのため両者を直接密着させても、ICと放熱器の間には少なからず空隙が残ります。空気はとても断熱性が高い(熱伝導率が低い、熱抵抗が高い)ため、ICの熱は空隙を避ける形で伝わるため、結果効率よく熱を外部に放熱することができません。それを解決するのが”TIM”です。

熱伝導シートに代表されるTIMをICと放熱器の間に挿入することで、お互いの表面の細かな凹凸の間にTIMが入り込みます。熱伝導性のいいTIMが双方間をすきまなく密着することで、密着面全体を使った熱の伝播経路ができるようになり、効率よくICの熱を外部に逃がすことができるようになります。物体間の熱の移動を助ける働きを持つ材料です。

熱の伝わり方と放熱対策

●熱とは?

発熱について

熱とは、物質を構成する粒子(分子、原子、電子)の運動のことを言い、気体粒子の運動、格子振動、自由電子の運動により発熱します。

・気体粒子の運動(分子):気体粒子(分子)の運動エネルギーが熱に変わることで発熱します。

・格子振動(原子):物質の固体状態で、結晶中の原子がそれぞれ安定な位置の周辺で行う微小な振動により発熱します。

・自由電子の運動:主に金属において電気が流れるのと同じく自由電子が動くことにより発熱します。

 

●熱の伝わり方(熱伝導、熱対流、熱放射)

熱の伝わり方(伝導、対流、放射)

熱は主に熱伝導、熱対流、熱放射の3つの方法で移動します。

・熱伝導

分子や原子などの粒子の振動が外部からのエネルギーにより大きくなり、その振動が隣の粒子に伝わることで熱が伝わります。

熱対流

固体と流体(液体、気体)の移動によって熱が伝わります。

熱放射

物体が温められると電磁波を放出し、この電磁波が他の物体に当たり熱が伝わります。

 

伝導、対流、放射を用いたデバイスの放熱対策

伝導、対流、放射を用いたデバイスの放熱対策

PCの放熱対策
従来のデスクトップPCの放熱は、冷却ファンが搭載されていました。外気からPC内部へ風を送り込み、放熱フィン(ヒートシンク)を熱対流を利用して熱を移動させ冷却していました。

その後ノートPCの軽薄化が進み、スマートフォン(PC)、タブレットが登場することで冷却ファンを設置するスペースはなくなり、風を用いた対流での熱移動ではなく、固体同士の熱伝導を用いて放熱するようになりました。

 

自動車の放熱対策

従来の内燃機関(エンジン)を用いた自動車では、エンジン部分の冷却が重要です。

そこでフロントグリル(車の顔の部分で網目状のもの)から空気を取り込み、対流にてラジエターを冷却し、ラジエター内部には冷媒を循環させ、熱伝導における熱交換を行ってきました。

しかし現在のBEV化は内燃機関が無くなるため、フロントグリル、ラジエターのようなパーツも無くなり、バッテリーそのものを放熱する、もしくはインバーターなどのデバイスを冷却することが重要となりました。

 

TIMに求められる役割、性能

放熱を水で例えると

放熱を水で例えると、物体と物体をつなぐパイプの部分が放熱部分になります。これをTIMに置き換えた場合、パイプが太いと熱抵抗が低く(熱伝導率が高い)、パイプが短いと発熱体とヒートシンクの距離が短いことになり、熱が外に逃げやすいと言えます。

 

TIMには、熱抵抗が低い、熱伝導率が高いなどの放熱性能が求められます。また、発熱体とヒートシンクの隙間を埋め(接触抵抗≒界面熱抵抗率)、熱の通り道を確保することが重要です。その他にも絶縁性、耐熱性、耐久性(信頼性、寿命)、ハンドリング性など以下の多くの役割、性能が求められています。

 

放熱特性

TIMは、発熱体とヒートシンクの間の熱伝達を改善するために使用されます。そのため、熱伝導率が高ければ高いほど、さらに熱抵抗率が低いほど、効率的に熱を伝達することができます。

 

隙間を埋められる柔軟性

TIMは、発熱体とヒートシンクの間にしっかりと密着する必要があります。そのため、適切な柔軟性が必要です。柔軟性を上げるために粘性を下げると、発熱体とヒートシンクからTIM流れてしまい、熱抵抗が上がります。また、硬すぎると隙間を埋められない、均一に塗布できないなどの問題があります。

 

耐熱、耐久性

TIMは、半導体などのオンオフの繰り返しによる発熱、冷却など過酷な環境で使用されます。さらに、より小さなエリア(部品)で発熱し急激な温度上昇が起こります。そのため、耐熱、耐久性は必須です。耐熱、耐久性が低いと時間が経つにつれ材料が劣化する、もしくはポンプアウトなどを起こし熱抵抗が上がってしまいます。

 

絶縁性

TIMが絶縁性を持たない場合、リーク電流が発生し、電子機器の故障につながります。

 

ハンドリング性

TIMを発熱体とヒートシンクの間にセットする際に、放熱グリースなどはディスペンサーなどを用いてセットできます。放熱シートの場合、粘着性を持っていることが多く、保護フィルムなどを剥がしてセッティングする必要があります。しかしながら、放熱グリースは先述したポンプアウトなどの問題があります。

 

 

TIMの種類と特長

TIMの種類には、放熱グリース、放熱シート、放熱パテなどがあります。

 

放熱グリース

粘性のある樹脂にフィラーを混ぜたペースト状の熱伝導材料です。一般的に熱伝導率が高く、接触抵抗(界面熱抵抗率)が低く、ディスペンサーなどを用いて簡単にセットできます。ただし、時間が経つと発熱体とヒートシンクの熱膨張率の違いによりポンプアウト現象などが起こってしまいます。

 

放熱シート

シート状に成型された熱伝導材料です。安定性が高くポンプアウトなどの心配がありません。しかし、一般的に放熱グリースよりも熱伝導率が低く、接触抵抗(界面熱抵抗率)が高くなります。

 

放熱パテ

高い粘性のある粘土状(パテ状)の熱伝導材料です。流動性が低いが、様々な形状に追従できるなどの特徴があります。

TIM評価方法の課題

TIMには多くの役割があり様々な場所で使用されていますが、これらのTIM材料の開発や採用検討されている研究開発部門において、材料評価方法にさまざまな課題があります。

 

測定・評価の手法が各社で異なる

TIM専用の標準規格としてもっとも実用的な測定法で、ASTM D5470-17が規定されています。しかしながら各社公表されている熱伝導率(W/m・K)をそれぞれ違った手法、装置、条件で測定されており、熱伝導率を同列で比較することが難しい現実があります。

ASTM D5470-17は定常法で規定されており、測定はサンプル厚み制御(計測)、その時に移動した熱量計測が最重要項目です。ある測定装置ではサンプル厚みを自ら作業者自身がシムなどを使用して設定する、代替の計測手法で置き換えるなど大変複雑な作業となっています。

 

熱伝導率のみでTIMの評価を行うことは問題?

熱伝導率の数値のみでTIMを評価してしまうと、本来TIMに求められている柔軟性、発熱体、ヒートシンクの隙間を埋めるなどの特性が反映されていないことが多く見受けられます。また、熱伝導率は厚みによらず一定なパラメーターであり、実際に使うTIMの厚み、もしくは接触抵抗、界面熱抵抗を含んでいません。

 

TIMの役割は熱伝導率だけではない

TIMに求められる性能は熱伝導率だけではなく、薄膜で使用できること(熱伝導距離を短くすること)、熱抵抗を下げた状態であること、界面熱抵抗(接触抵抗)を0(ゼロ)に近づける、つまり、発熱体とヒートシンクの隙間、空気を無くすことが求められます。

 

仮に界面熱抵抗率が同じで100W/m・K、10mmでしか使えないTIMと、1W/m・K、10μmで使えるTIMはどちらの性能が高いでしょうか?

一見100W/m・KのTIMの方が高性能に見えますが、使用できる厚みが10mmであるため熱抵抗が上がります。逆に、10μmという薄さで使用できる1W/m・KのTIMの方が熱抵抗率が低くなることで、より放熱性が高いと考えられます。

例として、柔らかい材料であるシリコーン樹脂は熱伝導率が低く、100W/m・Kはまずありません。しかし柔軟性に優れているため、発熱体とヒートシンクの隙間をしっかりと埋めることができます。さらにシリコーン樹脂に熱伝導率の高いフィラー(一般的には絶縁材料が好まれます)を混ぜることで熱伝導率を向上させることができます。

非定常法だと、直接、熱抵抗、熱伝導率を導くことができないため、比重、比熱などを別途測定する必要があります。

 

ポンプアウト現象の問題

また実際に使用される材料の厚みで、荷重をかけた状態での測定や長期信頼性における放熱グリスの欠点であるポンプアウト現象の問題などを評価する方法がありませんでした。

ポンプアウト現象

ポンプアウト現象とは

ポンプアウト現象とは、主に熱伝導グリスを使用した際に起きる現象で、熱サイクルによって熱伝導グリスが変形し、隙間が発生したりグリスが押し出されてしまう現象です。

ポンプアウト現象が起こると、熱伝導グリスの量が減少し、熱伝導率が低下します。その結果、発熱部品の温度が上がり、故障の原因となる可能性があります。

TIMの放熱性能評価、サーマルマネジメントに最適なTIMA5

Thermal Interface Material Analyzer

これらのTIM評価方法の課題を解決するのがThermal Interface Material Analyzer TIMA®5になります。

TIMA@5は、TIMなど熱伝導材料の界面熱抵抗率(mm²・K/W)、熱抵抗率(mm²・K/W)、熱伝導率(W/m・K)が測定可能な装置です。

TIMA@5はASTM D5470-17に完全準拠しています。

ポンプアウト現象にも対応した信頼性、寿命試験などが行えるサイクリングコントロール機能、さらにはTTV(Thermal Test Vehicles)を用いて発熱体を実際のチップにしたシステムなど、TIMに求められる放熱性能評価の課題を解決します。

Thermal Interface Material Analyzer TIMA®5の詳細はこちら

 

TIMA®5の特徴

・ASTM D5470に完全準拠

・より正確な界面熱抵抗率の算出が可能

・サンプル厚み1μm~、荷重±1N~自由に制御、モニター

・ポンプアウト現象などに対応した信頼性、寿命試験などが行えるサイクリングコントロール機能

ゲル、シートなどの放熱材料(TIM)の厚み、圧力制御を行い、さらにサイクル試験を行うことでの電子部品の熱収縮におけるギャップ変化から起こるポンプアウトなどの現象を再現し測定することが可能です。

・豊富なテストヘッド

□10~25.4㎜ φ13~25.4㎜ 銅とアルミの両方をご用意

・実物のIC回路と同形状チップでの発熱、温度計測を実現したTTVチップを用いて放熱特性評価が可能なTTV(Thermal Test Vehicles)システム

当社では、ドイツNanotest社製のTIMA®5を23年夏より日本国内で販売を開始しました。

 

製品に関するお問い合わせ、デモのご依頼はこちら▼

製品に関するお問い合わせ

 

新横浜駅から徒歩5分のデモルームにてテスト受付中

新横浜デモルームでは、サンプル持ち込みでTIMA5のテストを受付中です。※TTVシステムは現在準備中

松尾産業の〝熱Solution” デモルームに是非お越しください。

デモルーム

熱Solutionシリーズ

・サーモウェーブアナライザ TA シリーズ

ヒートシンク材料など高放熱材料評価において、水平、垂直、マッピングでの放熱特性評価

熱拡散率測定 サーモウェーブアナライザ TA シリーズ

グラファイトシートなど異方性材料などの熱拡散率測定が可能

 

・ゲルタイム測定装置まどか

樹脂の硬化時間を自動で簡単に測定 

ゲルタイム測定装置

様々な樹脂の硬化時間(ゲルタイム)を自動で測定することができます。

・半導体封止材、プリプレグ、接着剤、粘着剤、摩擦材、シーリング材、塗料他

・エポキシ、シリコーン、ウレタン、フェノール他

・熱硬化型、2液硬化型、湿気硬化型、常温硬化型 など

統計データから管理図、ヒストグラム図、パレート図を簡単に作成できます。

 

・新型ゲルタイム測定装置 しずか

ガラス繊維プリプレグ、炭素繊維プリプレグなどシートのままでゲルタイム測定が可能

新型ゲルタイム測定装置

ゲルタイム測定において従来から課題とされていた、ガラス繊維プリプレグ、炭素繊維プリプレグなどがシート状で測定できる新型ゲルタイム測定装置「しずか」をリリース

 

・高い熱伝導性、絶縁性を兼ね備えた、窒化アルミニウム基板、窒化アルミフィラー

窒化アルミニウム基板

窒化アルミ基板 250W/mK取り扱い開始
窒化アルミフィラー 球状粒子、高充填率/粒子径MAX80μm

 

TIMA5など熱Solution製品のカタログダウンロードはこちら▼

カタログダウンロード

 

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