INNOVATION

2025.10.02
USER VOICE / ADVANCED TECHNOLOGY

未踏の領域を切り拓く粘着剤研究開発と新しい価値創出|リンテック株式会社様

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リンテック株式会社様は、シール・ラベル素材から建物・自動車用、半導体・電子部品用途まで、幅広い分野に向けて粘着関連製品や機能性フィルムなどを提供する総合メーカーです。
今回は、未踏技術研究部の三浦様に、液状ボンディング材開発における「ゲルタイム測定」の課題と、測定装置「まどか」導入によって得られた成果、さらには今後の展望について伺いました。

未踏技術研究部が切り拓く新技術

貴社の事業内容と三浦様のお仕事内容についてお聞かせください。

 

リンテック株式会社は粘着関連製品の総合メーカーとして、「くっつく技術で未来を創る」をテーマに、シール・ラベル用の粘着紙・粘着フィルムをはじめ、半導体関連テープ、光学ディスプレイ関連フィルムなど、幅広い分野に事業を展開しています。

 

研究部隊は大きく「製品研究部」「新素材研究部」「未踏技術研究部」の3つに分かれています。私はその中で未踏技術研究部に所属しており、リンテックの新しい可能性を切り拓くための研究開発に取り組んでいます。

日々、新規技術の創出を目的とした研究開発を行うほか、学会での発表や情報収集、さらには大学や研究機関との共同研究を通じて、将来の事業につながるシーズの探索を進めています。

具体的には、二酸化炭素を原料としたリサイクル可能な材料やバイオマス由来の環境対応製品の開発、ナノカーボンを活用した高熱伝導性材料や次世代EUV露光機に必要となるペリクルなど、長期的視野で新規事業開発に必要な要素技術の開発を進めています。

PSQの可能性から生まれたLED素子固定用ダイボンド材開発

新規技術開拓に向けて取り組まれているんですね。他にも開発に関わられてきた製品があれば教えていただけますか?

 

 はい。以前私が所属していた製品研究部での取り組みとして、LED素子固定用の液状のダイボンド材、BLシリーズの開発があります。この製品は、PSQ(ポリシルセスキオキサン)という特殊な樹脂を用いていることが特徴です。もともとは「PSQを使って何かできないか」という発想から研究が始まり、その可能性を探る中でLED用途へと展開していきました。

機能性接着剤BL7411

 

LED素子固定用のダイボンド材は、LEDチップを基板に固定する際に使われる材料です。チップ由来の熱や光エネルギーがダイボンド材に集中するため、基板への高い接着性や耐熱性が求められます。また、光の取り出し効率を保つためには、黄変しにくいという特性(透明度)も重要です。

ダイボンド材には、一般的にシリコーン樹脂やエポキシ樹脂が用いられますが、それぞれに課題があります。シリコーン樹脂は透明性は高いものの接着強度が弱く、一方で、エポキシ樹脂は接着強度は高いものの黄変しやすいという特徴がありました。

これらに対し、PSQは耐熱性、高強度、柔軟性を兼ね備え、さらに熱が加わっても黄変しにくい特性を持っています。そのため、高い接着力や透明性を維持できるPSQは、LED素子固定用のダイボンド材に非常に適していました。

 

作業者によるゲルタイム測定結果のばらつきに苦労した研究現場

─PSQをどう活かすかという発想から、LED製品へ展開された経緯がとても興味深いですね。開発の裏側で、特に工夫されたことや大変だったことがあればぜひ教えてください。

 

実際の開発ではさまざまな試行錯誤がありましたが、その中でも大きな課題のひとつがゲルタイム測定でした。

以前はすべて手動で測定しており、攪拌棒で円を描くように攪拌し、液状樹脂が硬化するまでの時間を測定していました。しかし、同じ円を描く速さによって数値にずれが生じることがありました。さらに当初は5人ほどで交代しながら測定していたため、担当者によって結果にばらつきが出てしまい、正確なデータを得にくい状況が続きました。

 

そこで、少しでも安定した結果を得るために、測定はすべて私ひとりで行う体制に切り替えました。条件を揃えるため、半日かけて数十種類のサンプルを連続測定したこともあります。当時の材料では1サンプルの測定に1分ほどかけていたため、非常に根気のいる作業でした。それでも、全く同じように測定することは、困難でした。

 

発熱量の少ないPSQを効率的に測定するため「まどか」導入へ

まさに研究現場ならではのご苦労ですね。そのような背景からゲルタイム測定装置の導入検討につながったのでしょうか?

 

はい。ゲルタイム測定装置の導入を検討するきっかけの一つになりました。その過程では、熱分析装置などのほかの測定装置についても比較しました。

一般的な熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂は、硬化反応(架橋反応)に伴い反応熱を発します。反応系は異なるものの、PSQも硬化時に発熱するため、同様に評価できるのではと考え熱分析装置を検討しました。

 

しかし、私達が使用しているPSQは発熱量が非常に小さいため、テストした熱分析装置では測定結果のばらつきが大きく、検査項目に落とし込むことができなかったのです。そのため、硬化度合をトルクで評価できることや、“硬化挙動を直接捉えることができる”ゲルタイム測定装置の導入が最適だと判断しました。

「まどか」導入により再現性の高いデータ取得と条件検討の効率化を可能に

材料特性に合わせて測定手法を選び抜かれたのですね。

ゲルタイム測定装置「まどか」を導入されたことで、実際の開発や評価にはどのような効果や変化がありましたか?

 

導入後は大きく改善が見られました。

まず、再現性の良いデータが得られるようになり、測定結果のばらつきが大幅に減ったことが大きな成果です。これまで課題だった作業者ごとの差もほとんどなくなり、初めて装置を使う場合でも10〜15分程度のレクチャーで誰でも扱えるようになりました。

 

さらに、リアルタイムで硬化挙動を確認できるため、材料特性との関係を把握しやすくなり、条件検討も効率的に行えるようになりました。実際にPSQ以外の材料にも活用しており適用範囲は広がっています。

加えて、溶融すれば粉体材料も測定可能なので、これまで手作業での混合が難しかった試料もスムーズに評価できるようになり、研究開発の幅が広がりました。

こうした効果により製品開発のスピードと精度が大きく向上し、信頼性の高いデータに基づいた開発体制を築くことができたと感じています。

 

BLシリーズ製品化のタイミングでは、品質管理部門でも「まどか」を導入し、量産品の安定した品質評価にも活用しています。

幅広い視野で挑む、新技術と未来志向の研究開発

「まどか」が現場で役立つ装置になっていることが分かり嬉しい限りです。

最後に、今後の展望について教えてください。

 

これまでの成果にとどまらず、まだ誰も挑んでいない未踏の領域に引き続き挑戦していきたいと考えています。そのためには常に幅広い視野を持ち、既存の延長ではなく新しい発想から研究を進めていくことが重要です。

また、半導体や電子デバイスに限らず、さまざまな分野で役立つ新しい技術や新しい材料開発にも積極的に取り組みたいと思います。これからも社会や産業の進化に貢献できる研究を進めていきたいです。

導入製品紹介

ゲルタイム測定装置「まどか」

ゲルタイム測定を自動化することで、品質管理や研究開発の効率化を図ることが可能です。

お客様プロフィール

会社名:リンテック株式会社(LINTEC Corporation)

設立 :1934年(昭和9年)10月15日

従業員:連結:5,311人 単体:2,629人 (2025年3月31日現在)

URL:https://www.lintec.co.jp/