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2025.09.24
COLUMN / ADVANCED TECHNOLOGY
コートン先生の印刷、コーティング入門④

印刷の種類 ~凸版・凹版・平版・孔版~

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印刷って、どんな種類があるの?

コートン先生

はるきさん、第1回で話した“ものづくり”に使われる「印刷」と「コーティング」の違い、覚えているかな?

関連記事 vol.1ものづくりに使われる印刷とコーティング

 

もちろんです!印刷は、画像や文字などの“情報”をのせる技術。コーティングは、モノに“機能”を持たせる技術ですよね!

はるきさん

 

コートン先生

その通り。よく覚えてたね! 今回はその中から、「印刷」にスポットを当ててみようと思うんだ。“印刷”といっても、技術や仕組みはさまざまで、それぞれに得意な素材や表現があるんだよ。

 

なるほど〜。ちゃんと知っておかないと、選び方を間違えちゃいそうですね。

はるきさん

 

コートン先生

そうなんだ。印刷方式は大きく分けて、「有版印刷」と「無版印刷」の2種類があるんだ。

「無版印刷」は、家庭用のインクジェットプリンターのように、版を使わずデータから直接印刷する方式のことだよ。 今回はその反対、「有版印刷」に注目してみよう。代表的な4つの方式を紹介していくよ。

有版印刷の種類 凸版/平版/凹版/孔版

有版印刷…?なんだか聞き慣れない言葉です。

はるきさん
コートン先生

有版印刷というのは、印刷するために“版(はん)”を事前に作る方式のこと。

昔から使われているアナログ印刷の基本で、印刷したい絵柄や文字の形に合わせて版を作る必要があるんだよ。  

ふむふむ。それってどんな種類があるんですか?

はるきさん
コートン先生

「凸版(とっぱん)」「凹版(おうはん)」「平版(へいはん)」「孔版(こうはん)」と大きく4つに分けられるよ。それぞれ“インキがつく部分の構造”が違っていて、印刷方法も特徴も変わってくるんだ。

凸に凹に孔に…なんだか漢字が難しいですね。

はるきさん
コートン先生

大丈夫。順番に見ていこう!

凸版印刷 ― ハンコのような仕組み

コートン先生

凸版印刷は、インキを付ける部分が周りより盛り上がっているのが特徴だよ。つまりハンコと同じ仕組み!

あ、なるほど!インキをつけたハンコを紙に押すイメージですね。

はるきさん
コートン先生

その通り。凸部にインキを塗って、そのまま紙やフィルムなどの基材に押し付けるんだ。

代表的なのは活版印刷フレキソ印刷だよ。インキは全面に彫刻がされているアニロックスロールの彫刻部分にインキを溜め、余分なインキはドクターブレードでかき落として凸部の版に供給するんだ。

えっ、押し付けるってことは…ザラついた素材にも印刷できるんですか?

はるきさん
コートン先生

いいところに気づいたね!凸版印刷は、段ボール、紙、フィルム、ラベルなど柔らかい素材や大面積の印刷に向いていて、表面がちょっとザラついててもOKなんだ。柔らかくて腰のないトイレットペーパーなんかにも印刷できちゃうよ。

というのも、ハンコのように物理的に押しつける方式だから、多少の凹凸があってもインキがしっかり転写されるんだ。  

たしかに!ちょっとくらいデコボコしてても、ハンコって押せますもんね。

はるきさん
コートン先生

その通り。使うインキは、低~中粘度(50〜500mPa・s)くらいで、水性やUVインキが多く使われているよ。

あれ?でも凸版って、インキを凸部に盛って押すなら、粘度が高いほうがしっかり乗るような気もしますけど…?

はるきさん
コートン先生

いい疑問だね。実はインキが粘りすぎると、凸部の細かいところにうまくなじまず、カスレたり抜けたりしやすくなるんだ。 それに、転写のときもドロドロすぎると糸引きやにじみの原因になることがある。

だから、ある程度流れやすくて、でもにじみにくい―そんなバランスの取れた粘度がちょうどいいんだ。

凸版印刷ってハンコみたいな単純な仕組みかと思ったけど…奥が深いですね!

はるきさん

 

関連記事:レキソ印刷 | 水性インキ・UV硬化など環境にやさしい印刷方法

凹版印刷(おうはん) ― インキを溜めて転写

コートン先生

次は凹版印刷。こちらは逆に、印刷したい部分の版が周りより凹んでいるんだ。

凹んだ部分にインキを溜めてから、余分なインキをドクターブレードで掻き取って、紙やフィルムなどの基材に強い圧力をかけて転写するよ。

へぇ〜、さっきの凸版と反対で、凹んだところにインキを入れるんですね。

深さで印刷具合を調整できるんですか?

はるきさん
コートン先生

鋭いところを突いてきたね。 凹みの深さによってインキの量が調整できるから、階調やグラデーションの繊細な表現にとても強いんだ。

だからグラビア写真集や高級パッケージにも使われているんだよ。また、普段よく目にするお菓子や食品のパッケージにもグラビア印刷がよく使われているよ。

うわぁ…!印刷なのに、そんなに繊細な濃淡まで出せるんですね!

どんな素材に印刷できるんですか? フィルムとか、紙とか?

はるきさん
コートン先生

フィルム、紙やアルミ箔、軟包装材などにも印刷されることが多いね。

インキはかなりサラサラで、低粘度(10〜100mPa・s)の溶剤系インキが多く使われているよ。くぼみにインキをしっかり流し込むためには、流動性が高くないといけないんだ。

なるほど〜、プリンを作るときにプリン液を型に流すみたいですね。

凹んだ部分に行き渡らないときれいな仕上がりにならないんですね!

はるきさん

平版印刷(へいはん) ― 水と油の反発を利用

コートン先生

平版印刷は、版の表面がほとんど平らなのが特徴だよ。

平らなのに、どうやってインキがつく部分とつかない部分ができるんですか?

水の反発…なんだか不思議ですね。

はるきさん
コートン先生

そこが面白いところなんだ。

水は油をはじくよね? 版の表面には、水になじむ部分(親水性)と油になじむ部分(親油性)が、光や薬品を使った処理で印刷したい絵柄に合わせてあらかじめ作られているんだ。

水を全体に塗ると、親水性の部分には水が残り、インキをはじく。一方、親油性の部分には水がのらないから、そこにだけインキがくっついて、必要な部分だけが印刷されるってわけ。

なるほど!水と油の性質を利用しているんですね。

はるきさん
コートン先生

そうだね、代表例はオフセット印刷新聞やチラシ、書籍などによく使われていて、平らでなめらかな紙が向いているんだ。

 使うインキは高粘度(10,000~100,000mPa・s )で複数のローラーで練って薄く延ばしてから版にインキを乗せるんだ。油性やUV硬化型のものが主流だよ。

そうなんですね。中くらいの粘度じゃないとダメなんですか?

はるきさん
コートン先生

フィルム、紙やアルミ箔、軟包装材などにも印刷されることが多いね。

オフセットインキには“粘り”と“流れやすさ”の両面の性質が必要ななんだ。これをチクソ性というんだ。

そのままの状態だと高い粘度を保つ。その一方でローラーの回転でせん断力が加わると粘度が下がるようなインキがいるんだよ。

孔版印刷(こうはん) ― 穴からインキを通す

コートン先生

孔版印刷は、版にインキを通すための穴が開いていて、その穴を通してインキを押し出して印刷するんだ。 シルクスクリーン印刷などがこれにあたるね。

Tシャツのプリントとか、ポスター印刷によく使われているよ。

版に穴が空いているんですね!なんだか工作みたいで楽しそう!

はるきさん
コートン先生

そうだね。布、ガラス、金属、プラスチックなど、いろんな素材に印刷できるのが強みだよ。

厚膜印刷ができるから、電子部品の回路形成にも使われるんだ。

インキはスクリーンの孔の空いていない部分に供給してスキージーでしごいて孔の空いた版を通過して印刷されるんだ。

厚く塗れるってことは、インキはネバネバですか?

はるきさん
コートン先生

その通り。高粘度タイプ(3,000〜50,000mPa・s)のペースト状インキが使われる。 電子部品の配線や、接着剤・導電インキなどもこれで印刷できるんだよ。

【印刷方式まとめ】印刷は“使い分け”がカギ!

コートン先生

それぞれの印刷方式には得意・不得意があるから、印刷する素材・数量・必要な品質によって、最適な方式が選ばれるんだよ。

 

印刷方式の種類と特長

分類 凸版 凹版 平版 孔版
代表方式 活版・フレキソ印刷 グラビア印刷 オフセット印刷 スクリーン印刷
版の構造 盛り上がり(凸部にインキ) くぼみ(凹部にインキ) 平面(親水/親油で分離) メッシュに孔(穴)
技法の特徴 ハンコの原理で転写 インキを溜めて圧で転写 水と油の反発で選択転写 穴からインキを押し出して印刷
主に使われるインキ 水性・UVインキ 溶剤系インキ 油性インキ・UVインキ 導電インキ・粘着剤など機能性系
インキ粘度の目安 50~500 mPa・s 10~100 mPa・s 10,000~100,000 mPa・s 3,000~50,000 mPa・s
向いている基材 段ボール、紙、フィルム、ラベル フィルム、紙、アルミ箔、軟包装 平滑な紙、印刷用紙 布、ガラス、金属、プラスチックなど
メリット ・版が安価
・シャープな文字
・階調や写真表現が得意
・大量印刷に強い
・高精細印刷が可能
・幅広い用途に対応
・厚膜印刷が可能
・異素材にも対応
デメリット ・階調・グラデに弱い ・版が高価で複雑 ・水分や印刷濃度の安定性が課題 ・速度が遅い
・連続印刷に不向き
主な用途 新聞、名刺、帳票、段ボール、シールラベル、軟包装 写真集、化粧品パッケージ、軟包装 チラシ、ポスター、雑誌、書籍 Tシャツ、ステッカー、回路形成など

おまけ:フレキソインキ、オフセットインキ 印刷実験動画!

先生、今日は色々な印刷方式を学びましたけど、実際に印刷してみると仕上がりってそんなに変わるものなんですか?

はるきさん
コートン先生

この違い、説明するより見てもらうのが一番かなと思って、ちょっと遊び心で実験してみたよ。

フレキソ印刷試験機でフレキソインキとオフセットインキを印刷してみたんだ。動画にしてみたから、ぜひ見てみて。言葉より一目瞭然だよ。

 

えっ、同じ機械で違うインキを?それは気になります!

はるきさん
コートン先生

うん。フレキソ用のインキだとインキはドクターブレードでかき取られてきれいに印刷できるけど、オフセット用のインキは高粘度で、チクソ性があるから、インキはドクターブレードの下を潜り抜けてしまって、正常にかき取りができず厚盛になって、印刷が粗くなるんだ。

インキの粘度や性質が違うから、“インキが印刷方式に合っていないとどうなるか”がよく分かる実験になってるよ。

すごい…まさに“百聞は一見にしかず”ですね!

これを見たら、印刷方式の選び方もますます面白くなりそうです!

はるきさん
コートン先生

それはよかった!街で見かける印刷物――たとえば、コンビニのおにぎりのパッケージとか、駅に貼ってあるポスター、チラシや雑誌の表紙なんかも、よく見ると印刷方式の違いが現れているんだ。

「これはどうやって刷られてるのかな?」って考えてみると、きっと面白い発見があるよ。

 

キャラクター紹介

はるきさん

日々製造現場や研究室を飛び回りながら、「なぜ?」「どうして?」を口にして先生たちに質問をぶつける、好奇心旺盛でちょっとおっちょこちょいな新人研究者。

コートン先生 

長年、コーティングや印刷技術に携わってきたベテラン技術者。
穏やかな語り口と、理論と現場の両面に精通した深い知識で、若手たちの疑問に丁寧に答える頼れる先生。

 

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次回予告 なぜ塗布重量を測るのか?──性能を引き出し、条件をそろえるために

コーティングは、一見すると同じように塗れているように見えても、厚さや重量の違いで性能は大きく変わります。

見た目では判断できない“塗布量”こそが、製品の性能を左右するカギ。

次回は、その塗布重量を なぜ測るのかについて分かりやすく解説します。