技術者の秘密基地
2026.09.09
COLUMN
コートン先生の印刷、コーティング入門 vol.10

コロナ処理で濡れ性はどこまで変わる? 塗工実験と接触角で検証

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コロナ処理で塗工性はどう変わる?

先生、「コロナ処理をするとはじきにくくなって塗工しやすくなる」ってよく聞きますけど、

本当にそんなに違うものなんですか?

はるきさん
コートン先生

いい質問だね。まずは説明より、実際の濡れ方を見てみよう。

同じフィルムに同じ着色水をバーコーターで塗って、コロナ処理の有無だけを変えて比較した結果がこれだよ。

コロナ処理ありとなしの違い

コロナ処理なし(左)とコロナ処理あり(右)の濡れ方の違い

 

えっ!? 未処理側は水が細かくはじかれているのに、処理した側はフィルム全体に広がっています!

はるきさん
コートン先生

同じフィルム、同じ液でも、表面状態が変わると濡れ方はここまで変わるんだ。

今回は、この違いを「見た目」と「接触角」の両方から確かめてみよう。

コロナ処理とは?

そもそも、コロナ処理ってどんな処理なんですか?

はるきさん
コートン先生

コロナ処理は、高電圧の放電を利用して塗工や印刷などの前に、基材の表面を整えるための表面処理なんだ。

特にPETやPPなどの樹脂フィルムでは、表面を改質することで塗料やインキが濡れやすくなり、密着性の改善にもつながるんだよ。

フィルムに何かを塗ったり、印刷したりするための下準備なんですね。

はるきさん
コートン先生

そうだね。食品包装や粘着テープ、光学・電子材料など、いろいろなところで使われているよ。

実は、樹脂フィルムだけでなく、アルミ箔や銅箔のような金属箔にも使われているんだよ。

 

コロナ処理の代表的な用途例

 

分野

用途例

包装・印刷

食品包装フィルムへの印刷、ラミネート

粘着・光学

粘着テープ、光学フィルム

電池・電子材料

セパレーター、電極、電子材料用フィルム

医療

医療用フィルム

コロナ未処理と処理済みフィルムを塗り比べる

コロナ未処理フィルムに塗工する

 

コートン先生

まずは、コロナ処理をしていないPETフィルムに染料で着色した水をバーコーターで塗ってみよう。

【動画】コロナ未処理PETへの塗工。液が局所的にはじかれている

ラボ/パイロットコーター VCML にて塗工

 

液が全然均一に広がりませんね。ところどころ島みたいになっています!

はるきさん
コートン先生

これが濡れ性の低い状態だね。液体が表面全体に広がらず、局所的にはじかれている。

 

コロナ処理をする

 

次に、VCMLに搭載されているコロナ処理機を使うんですね。

はるきさん
コートン先生

そうだね。今回は処理した直後に、そのまま同じ条件で、バーコーターで塗工するよ。

【動画】コロナ処理中 紫色に見える部分が放電部

 

この紫色に光っている部分がコロナ放電ですか?

はるきさん
コートン先生

そうだよ。高電圧による放電で、表面の状態を変化させているんだ。

 

処理直後に、同じ条件で再び塗工

 

コートン先生

では、処理した部分に同じ着色水を塗って、塗工の様子がどう変わるのか、処理前と処理後を動画で比べてみよう。

フィルム、着色水、バーコーター条件は同じ。違うのはコロナ処理をしたかどうかだけだよ。

【動画】 コロナ処理前/コロナ処理後の塗工

コロナ未処理では着色水が局所的にはじかれるのに対し、コロナ処理後は未処理時より液が広がっている。

 

すごい!コロナ処理後はずっと均一に水が広がっていますね。

はるきさん
コートン先生

見た目では違いがはっきりしたね。では次に、数値でも確認してみよう。

 

接触角で濡れ性を数値化する

濡れ方の違いって、どうやって数値で確認するんですか?

はるきさん
コートン先生

表面の濡れ性を定量的に確認する方法の一つに「接触角測定」があるよ。

水滴が丸く盛り上がるほど接触角は大きく、表面に広がるほど小さくなるんだ。

 

状態

接触角

濡れ性

水滴が丸い

大きい

濡れにくい

水滴が広がる

小さい

濡れやすい

 

未処理PETを測定

コロナ未処理PETの接触角測定例:65.6°

 

コートン先生

まず1点を測ると、未処理PETの接触角は65.6°だった。

水滴が比較的丸く、表面に広がりにくいことが分かるね。

 

コロナ処理後を測定

 

コロナ処理済みPETの接触角測定例:39.6°

 

処理後は、水滴の形がかなり平たくなっていますね。

はるきさん
コートン先生

1点測定では39.6°だった。処理前より接触角が小さくなっているね。

ただし、1回だけでは判断しにくいから、同じフィルムの異なる場所を5箇所測定してみよう。

 

5か所測定して、平均値とばらつきを比較

 

 

1

2

3

4

5

平均

S.D.

PET(未処理)

65.6

66.6

64.9

67.7

67.1

66.4

1.1

PET(処理あり)

39.6

40.4

39.3

40.1

40.8

40.0

0.6

※S.D.(標準偏差)は測定値のばらつきの大きさを示します。

5か所とも、同じ傾向が出ていますね。

はるきさん
コートン先生

そうだね。今回の試料では、平均接触角が66.4°から40.0°へ低下した。

5か所の測定値のばらつきも小さく、コロナ処理前後の差を明確に確認できたね。

見た目だけじゃなくて、数値でも濡れ性の変化がはっきり確認できました!

はるきさん

なぜコロナ処理で濡れやすくなるの?

でも先生、コロナ処理で放電を当てただけで、どうしてPETの表面が水となじみやすくなるんですか?

はるきさん
コートン先生

ポイントは、フィルムの「表面の化学状態」が変わることなんだ。

PET自体を別の材料に変えるわけではなく、フィルムの表面で酸化反応などが起こって、水となじみやすい部分が増えるんだよ。

 

PETの繰り返し構造(簡略表示)

[−O−CH₂−CH₂−O−CO−C₆H₄−CO−]ₙ

 

コートン先生

コロナ放電では、空気中に電子や励起種、ラジカル、活性酸素など、反応しやすいものが生まれる。それらがPETの表面に作用して、表面の一部が酸化されるんだ。

 

表面酸化の模式イメージ(実際には複数の反応が同時に起こります)

R−H + O• → R• + •OH

R• + O₂ → ROO• → −OH、C=O、−COOH などの酸素含有基

 

……先生、式になると急に難しいです(笑)。

結局、PETの表面では何が変わっているんですか?

はるきさん
コートン先生

簡単にいうと、コロナ処理によってPET表面に、−OHやC=O、−COOHなど、電気的な偏りをもつ部分(極性)が増えるんだ。

水も同じように電気的な偏りをもった分子だから、こうした部分が増えると、PETの表面と水がなじみやすくなるんだよ。

うーん……分かったような、分からないような。

はるきさん
コートン先生

ははは。ここは少し難しいところだからね。

難しい式はさておき(笑)、コロナ処理で水となじみやすい部分が表面に増えると考えればいいんですね。

はるきさん
コートン先生

そういうことだね。

その結果、水がフィルム表面に広がりやすくなって、接触角も小さくなるんだよ。

※上の反応経路は表面反応を理解するための模式表現です。実際の生成種や反応経路はフィルム材質・処理条件・雰囲気などによって変わります。

コロナ処理の効果はずっと続くの?

じゃあ、一度コロナ処理すれば、ずっとこの濡れやすい状態が続くんですか?

はるきさん
コートン先生

実は、そうとは限らないんだ。処理後の表面状態は時間とともに変化して、濡れ性が低下することがある。

こうした経時変化は、現場では「エージング」と呼ばれることがあるよ。

せっかく表面に極性基ができても、時間が経つと状態が変わるんですね。

はるきさん
コートン先生

そうだね。表面の分子の再配向や、添加剤・低分子成分の表面への移行などによって、処理直後と同じ状態がずっと保たれるとは限らない。

だから実際の製造ラインでは、コロナ処理のあと、できるだけ早く塗工や印刷へ進む設計がよく採られるんだ。

 

コロナ処理 → できるだけ早く塗工・印刷

 

処理強度だけじゃなくて、「処理してから塗るまでの時間」も管理項目になるんですね。

はるきさん
コートン先生

その通り。濡れ不良を調べるときは、処理の有無だけでなく、処理条件や処理後の経過時間も確認するといいよ。

まとめ

項目

コロナ未処理

コロナ処理後

塗工状態

液がはじかれやすい

均一に広がりやすい

平均接触角

66.4°

40.0°

表面状態

比較的低い濡れ性

酸素含有極性基の増加などにより

濡れ性向上

 

今回の実験では、コロナ処理によって見た目の塗れ方だけでなく、接触角も66.4°から40.0°へ大きく変わることが確認できました。

はるきさん
コートン先生

そうだね。塗工ムラや印刷不良、密着不良などが起きたときは、塗工液や塗工条件だけでなく、基材表面の状態にも目を向けることが大切だよ。

コロナ処理の状態や処理後の経過時間を確認することが、原因を絞り込む手がかりになることもあるんだ。

「塗る条件」だけじゃなくて、「塗る前の表面」を見る。現場で使える引き出しがまた一つ増えました!

はるきさん

 

おまけ フィルムだけじゃない表面処理

コートン先生

今回はPETで見ているけれど、表面を活性化して次の塗工や接着につなげるという考え方は、樹脂フィルムだけではないんだ。アルミ箔や銅箔のような金属箔でも、表面状態を整える目的でコロナやプラズマなどの処理が使われることがあるよ。

コロナ処理って、フィルムだけに使うものだと思っていました。

はるきさん
コートン先生

実はそうでもないんだよ。アルミ箔や銅箔のような金属箔でも、塗工や接着の前処理として表面状態を整える考え方は重要なんだ。樹脂フィルムとは少し目的や表面反応が違うけどね。

同じ“表面処理”でも、材料によって狙いが違うんですね。

はるきさん
コートン先生

そうなんだよ。そこが表面改質の面白いところだね。

 

キャラクター紹介

はるきさん

日々製造現場や研究室を飛び回りながら、「なぜ?」「どうして?」を口にして先生たちに質問をぶつける、好奇心旺盛でちょっとおっちょこちょいな新人研究者。

コートン先生 

長年、コーティングや印刷技術に携わってきたベテラン技術者。

穏やかな語り口と、理論と現場の両面に精通した深い知識で、若手たちの疑問に丁寧に答える頼れる先生。

 

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