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2024.10.17
CASESTUDY

系統用蓄電池とは|ビジネスモデルや導入プロセスをわかりやすく紹介

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系統用蓄電池に、近年注目が高まっています。本記事では、系統用蓄電池の基本的な仕組みや他の蓄電池との違い、国内での導入状況について解説します。また、系統用蓄電池を導入するメリット・デメリットや、選ぶ際に重視すべきポイント、ビジネスを成功させるためのプロセスについても詳しく紹介します。電力市場での価格差や補助金制度など、最新のトレンドを交えながら、系統用蓄電池の将来性をわかりやすくお伝えしますので、導入を検討している方や業界のトレンドを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

系統用蓄電池とは

系統用蓄電池は、電力系統(発電所・送電線・変電所・配電設備などの電力ネットワーク)に直接接続される大規模な蓄電池です。主に電力の安定供給や調整力の提供を目的として設置されます。系統用蓄電池は、電力需給バランスの調整や再生可能エネルギーの有効活用に重要な役割を果たしています。

 

系統用蓄電池の仕組み

系統用蓄電池は、電力系統(送配電網)に直接接続されることで、柔軟な充放電が可能となります。一方、電力需要が高まる時間帯や再生可能エネルギーの発電量が減少する際には、蓄電池から電力を放電し、系統を通じて電力を供給します。この仕組みにより、電力の需給バランスを調整し、再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化に貢献しています。

 

他の蓄電池の種類との違い

蓄電池には、系統用蓄電池以外にもさまざまな種類があります。定置用蓄電池は、家庭用や業務・産業用として需要家側に設置され、主に自家消費や非常用電源として利用されます。車載用蓄電池は電気自動車やハイブリッド車に搭載され、民生用蓄電池はパソコンや携帯電話などの小型電子機器に使用されます。

出典:経済産業省|定置用蓄電システムの普及拡大策の検討に向けた調査 調査報告書(引用日:2024年9月末)

 

系統用蓄電池の最大の特徴は、電力系統に直接接続されている点です。他の蓄電池が主に特定の施設や機器のために使用されるのに対し、系統用蓄電池は電力系統全体の安定化への活用を目的としています。

また、系統用蓄電池は大規模な容量を持ち、電力市場での取引に参加できるため、新たなビジネスモデルの創出にも貢献しています。この点が、他の種類の蓄電池とは大きく異なる特徴と言えます。

 

 

系統用蓄電池の市場規模

系統用蓄電池の市場規模は、近年急速に拡大しています。株式会社矢野経済研究所の調査によると、2022年の電力系統関連で用いられる定置用蓄電池の世界市場規模は、メーカー出荷容量ベースで93,185MWhに達しました。

この数字は、カーボンニュートラル実現に向けた各国の支援制度強化や、電気料金高騰による自家発電・自家消費需要の増加、再生可能エネルギー発電コストの低下による売電利益改善などを背景に、大幅な成長を遂げたことを示しています。さらに、2023年の市場規模は前年比151.7%の141,323MWhに達すると予測されています。

特筆すべきは、電力系統関連定置用蓄電池の設置国を見ると、北米、中国、欧州の3地域が全体の87%以上を占めると見込まれている点です。この成長傾向は今後も続く見通しで、2032年には市場規模が682,797MWhまで拡大すると予測されています。これは2023年から2032年までの年平均成長率が19.1%に達することを意味し、系統用蓄電池市場の飛躍的な成長が期待されています。

このような市場拡大の背景には、再生可能エネルギーの導入加速化に伴う電力品質安定化のニーズ増大や、蓄電池技術の進歩による価格低下などが挙げられます。系統用蓄電池は、今後のエネルギー転換において重要な役割を担うことが予想されます。

系統用蓄電池の国内の導入状況

出典:経済産業省 系統用蓄電池の現状と課題(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/062_05_00.pdf)(引用日:2024年9月末)

系統用蓄電池の導入は、日本国内でも着実に進展しています。経済産業省の「系統用蓄電池の現状と課題」によると、全国の電力エリアで系統用蓄電池の導入が進められていますが、特に東北、北海道、九州の3地域で顕著な成長が見られます。

北海道電力エリアでは、系統用蓄電池の接続検討申込が年々増加しており、2022年7月末時点で累積申込量が160万kWに達しています。この数字は、北海道エリアの平均電力需要(約350万kW)の半分近くに相当し、地域の電力系統における蓄電池の重要性が高まっていることを示しています。

九州電力エリアも、系統用蓄電池の導入が活発な地域の一つです。太陽光発電の出力制御対策として、系統用蓄電池の活用が進められています。例えば、2023年7月には福岡県田川郡香春町に出力1.4MW、容量4.2MWhの蓄電システムが設置され、運用が開始されました。

東北地域においても、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、系統用蓄電池の需要が高まっています。これらの地域では、太陽光発電や風力発電などの変動性再生可能エネルギーの導入量が多く、電力系統の安定化や効率的な電力利用のために系統用蓄電池が重要な役割を果たしています。

全国的に見ると、2023年5月時点で、接続検討受付が1,200万kW、契約申込が約112万kWに達しており、系統用蓄電池の導入が急速に拡大していることがわかります。この傾向は、再生可能エネルギーのさらなる普及と電力系統の安定化に向けて、今後も継続することが予想されます。

系統用蓄電池が注目される背景

系統用蓄電池が注目を集める主な理由として、以下が挙げられます。

  • 電力市場の時間帯のよる価格差の拡大
  • 蓄電池の価格の低下・補助金制度の強化

これらの要因が相まって、系統用蓄電池の導入が加速しています。

 

電力市場の時間帯のよる価格差の拡大

電力市場の時間帯による価格差の拡大は、系統用蓄電池の導入を促進する重要な要因となっています。近年、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、日中の電力価格が低下する一方で、夕方以降の需要ピーク時には価格が高騰する傾向が顕著になっています。

例えば、2024年5月2日の約定料金を見てみると、昼間は0.01円/kWhだったのに対し、夕方の18時には15.00円/kWhまで上昇しました。この1,500倍もの価格差は、系統用蓄電池を活用した収益機会を生み出しています。蓄電池所有者は、安価な時間帯に充電し、高価格な時間帯に放電することで、大きな利益を得ることが可能になりました。

 

蓄電池の価格の低下・補助金制度の強化

系統用蓄電池の導入が加速している背景には、蓄電池価格の低下と補助金制度の強化があります。蓄電池の価格は年々低下しており、2013年と比較すると2021年の価格は約19.3%、つまり5分の1程度まで低下しています。経済産業省が公表している定置用蓄電システムに関する調査報告書によると、1kWhあたりの導入費用は約6万円程度となっており、以前と比べて大幅にコストが低減されています。

さらに、国や地方自治体による補助金制度の拡充も導入を後押ししています。例えば、一般社団法人環境共創イニシアチブによる「令和6年度再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金」などがあります。

このような補助金制度の活用により、初期投資の負担が軽減され、系統用蓄電池の導入がより現実的なものとなっています。

系統用蓄電池を導入するメリット・デメリット

系統用蓄電池を導入する際のメリットとデメリットを紹介します。

 

系統用蓄電池を導入するメリット

系統用蓄電池を導入すると、電力市場で収益を獲得できるという経済的なメリットがあります。蓄電池を活用して、電力価格が安い時間帯には充電を行い、価格が高騰するタイミングでは売電するといったかたちで、電力需給の変動に応じて柔軟に充放電を行います。こうして電力の価格差を利用することで収益を得ることができるのです。

さらに、需給調整市場や容量市場などの電力取引市場にも参加できるため、それらも収入源となります。こうした収益機会を適切に活用することで、初期投資の回収を加速し、長期的な利益につなげることができるでしょう。

 

系統用蓄電池を導入するデメリット

系統用蓄電池の導入には、考慮すべきデメリットも存在します。最も大きな課題は、高額な導入コストです。蓄電池本体や関連設備の費用が高額になるため、初期投資の負担が大きくなります。近年では価格が低下傾向にあり、補助金制度も充実してきていますが、依然として大きな投資が必要です。

次に、専門的な運用知識が必要になる点が挙げられます。電力市場の動向を把握し、効率的に充放電を行うには高度な知識と技術が求められます。多くの場合、アグリゲーターと呼ばれる専門業者に運用を委託することになります。

さらに、継続的な保守管理が必要になる点もデメリットと言えます。蓄電池の性能を維持し、安全に運用するためには、定期的なメンテナンスや部品交換が欠かせません。これらの保守管理コストも考慮に入れる必要があります。

系統用蓄電池を選ぶポイント

系統用蓄電池を選ぶ際には、5つのポイントを紹介します。

 

  • 蓄電池本体の性能
  • 蓄電池を制御するシステムの性能
  • 異なるメーカー機器の制御(インテグレート)
  • 保守メンテナンス体制
  • メーカー自体のクレジット、国内体制

 

これらの要素を総合的に評価することで、最適な系統用蓄電池を選択できます。以下で詳しくそれぞれを解説します。

 

蓄電池本体の性能

蓄電池本体の性能は、系統用蓄電池の選定において最も重要な要素の一つです。特に注目すべきは、蓄電容量と定格出力です。系統用蓄電池事業を行う上では、最低でも50kWの定格出力が必要となります。その理由は、卸電力市場「JEPX(日本卸電力取引所)」における最低取引単位が「1コマ30分/50kW」だからです。つまり、「50kW未満」の定格出力の蓄電池では、そもそも系統用蓄電池事業を行うことはできないのです。

50kWの定格出力がある蓄電池であれば、最低取引単価を満たすことはできますが、それでは1コマしか取引できないため、事業を進めるとなると現実的ではありません。実用的には2,000kWh以上の容量が望ましいとされています。

また、充放電効率や寿命も重要な指標です。高効率で長寿命の蓄電池を選ぶことで、長期的な運用コストを抑えることができます。さらに、安全性も考慮に入れる必要があります。耐火性能や類焼防止対策が施されているかどうかを確認し、万が一の事態に備えることが大切です。

 

蓄電池を制御するシステムの性能

蓄電池を効率的に運用するためには、制御システムの性能が鍵を握ります。特に重要なのが、BMS(Battery Management System)の性能です。BMSは蓄電池の充放電を制御し、安全かつ効率的な運用を可能にするものです。

高性能なBMSは、各セルの電圧や温度を常時モニタリングし、最適な充放電バランスを維持します。これにより、蓄電池の寿命を延ばし、性能を最大限に引き出すことができます。また、電力市場の変動に迅速に対応できる柔軟性も重要です。リアルタイムでのデータ分析や自動制御機能を備えたシステムを選ぶことで、収益性を高めることができます。

 

異なるメーカー機器の制御(インテグレート)

系統用蓄電池を導入する際、既存の設備や将来的な拡張性を考慮することが重要です。異なるメーカーの機器を効果的に制御(インテグレート)できるシステムを選ぶことで、柔軟な運用が可能になります。

また、エネルギーマネジメントシステム(EMS)との互換性も重要なポイントです。さまざまな機器やシステムを一元管理できるプラットフォームを持つ蓄電池システムを選ぶことで、全体的な効率性と運用の容易さを向上させることができます。

 

保守メンテナンス体制

系統用蓄電池の長期的な運用には、適切な保守メンテナンス体制が不可欠です。定期的な点検や部品交換、緊急時の対応など、包括的なサポート体制を持つメーカーや施工会社を選ぶことが重要です。

また、予防保全の観点から、遠隔監視システムや予測診断技術を備えたサービスを提供しているかどうかも重要なポイントです。さらに、長期的な部品供給や技術サポートの保証も考慮に入れるべきです。

これらの要素を総合的に評価し、信頼性の高い保守メンテナンス体制を持つ蓄電池システムを選択することで、安定した運用と長期的な収益性を確保できます。

 

メーカー自体のクレジット、国内体制

系統用蓄電池の選定において、メーカー自体の信頼性と国内サポート体制も重要な判断基準です。まず、メーカーの財務状況や市場での評価(クレジット)を確認することが大切です。安定した経営基盤を持つメーカーを選ぶことで、長期的なサポートや保証を確保できます。

また、国内での販売実績やサービス体制も重要です。日本国内に十分なサポート拠点や技術者を配置しているかどうかを確認しましょう。さらに、日本の電力系統や規制に精通しているかどうかも考慮に入れるべきポイントです。国内の法規制や技術基準に適合した製品を提供し、迅速なアフターサービスが受けられるメーカーを選ぶことで、安心して系統用蓄電池を導入・運用することができます。

系統用蓄電池事業のプロセス(実装フロー)

【発電設備等系統アクセス業務の流れ(単独負担で連系する場合)】

出典:経済産業省 資源エネルギー庁 系統接続について(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/grid/01_setsuzoku.html)(引用日:2024年9月末)

系統用蓄電池事業のプロセスは、主に下記の3段階で進められます。

  • 接続検討に先立つ事前相談(任意)
  • 接続検討申込み・検討結果の回答
  • 接続契約申込み・連系承諾・工事費負担金契約の締結

まず、事業者は任意で事前相談を行うことができます。次に、正式な接続検討の申し込みを行い、一般送配電事業者または配電事業者から検討結果の回答を受け取ります。この段階で、系統への接続可否や必要な工事の概要が明らかになります。

最後に、接続契約の申し込みを行い、連系承諾を得た上で工事費負担金契約を締結します。このプロセスを経て、系統用蓄電池の設置と運用が可能となります。各段階で詳細な技術的検討や費用の精査が行われるため、慎重な対応が求められます。


系統用蓄電池の導入には、電力会社との調整、各種申請、安全対策など、多くの手続きや専門知識が必要です。さらに電力系統や他のシステムとの連携、そして最適な制御に応えるためには、高度なシステム開発が不可欠となります。松尾産業はシステム設計や電力会社との連携など、設計から施工までワンストップサポートの提供が可能です。系統用蓄電池導入に必要な専門知識を有したメンバーが、導入企業様に伴走し、利益最大化に貢献できる体制を整えています。

まとめ

本記事では、系統用蓄電池の基本的な仕組みから市場規模、国内の導入状況、メリット・デメリットまで詳しく解説していきました。また、系統用蓄電池の導入を検討中の企業様に向けてに蓄電池を選ぶ際のポイントや実際の導入プロセスも紹介しています。

松尾産業は北米や中国などグローバルメーカーの幅広い製品をラインアップし、系統用蓄電池の販売を中心に、各エリアの電力会社との系統接続協議、蓄電システムの設計、電力売買に関わるソフトウェアを含む蓄電システム実働までワンストップソリューションを提供します。

販売のみ、コンサルティングや開発サポートなど、お客様のニーズに合わせたて系統用蓄電池事業を推進する事業者様に伴走致します。お気軽にお問い合わせください。

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