佐々木:導電性ポリマーとは、2000年にノーベル賞を受賞した白川英樹氏らがポリアセチレンフィルムの合成により発見された、電気が流れる高分子材料(プラスチック・ゴムなど)の総称です。一般にプラスチックは絶縁体ですが、この発見により電気を通すプラスチック「導電性ポリマー」が開発されるようになりました。
無機材料の得意な電気的特性と石油化学の得意な軽量化を併せ持つ、金属とプラスチック両方の特徴を備えた新材料として、タッチパネルなどさまざまな分野で応用され、次世代のモノづくりへ貢献が進んでいます。
佐々木:たとえば、「電気を流す」と「蓄える」の中間の状態、緩やかに流れる状態を作ることで、ONとOFF、0と1の様なデジタル的な動きから、滑らかな電気の移動を実現することが可能となります。
私たちの身体を動かしているのは脳から送られる電気信号であると、お聞きになったことがある方も多いと思います。同じ要領で、本技術を使用した次世代アクチュエータ(人工筋肉など)の研究が進んでいます。
※画像はイメージです
また、ポリマー特性を活かした、曲げたり、着用できるなど自由な成型加工によるフレキシブルセンサーなども期待、開発されています。たとえば、「つける」ではなく皮膚などに直接沿わせることが可能な、皮膚に「貼れる」「着る」ことができるセンサーの開発。布製のデバイスなど、SFの世界を実現するのに一役買う素材だと感じています。
さらに、簡便な操作でデバイスが製造でき、大きなプラントを必要としない省スペース省エネルギーなモノづくりが実現できるなど、モノづくりのプロセスにも大きく貢献する可能性があります。
まだまだ未来に向けた研究対象素材ではありますが、近い将来、工業製品化される日もちかいかもしれません。
佐々木:このような可能性をもつ導電性ポリマーは、近年次々と開発が進んでいます。
当社でも導電性ポリマーに注目し、以前より導電性ポリマー「 PEDOT/PSS 」を取り扱ってきました。そして、2022年4月の業務資本提携を皮切りに事業化へ向けての取り組みを加速させております。
多くある導電性高分子から、PEDOT/PSS(Poly3,4-EthyleneDiOxyThiophene/Poly4-StyreneSulfonate)が選ばれる理由としては耐熱性が200℃と非常に高く安定性がすぐれていることがあります。
導電性ポリマーは基本的に塗工することで機能を付与していますが、PEDOT/PSSは200℃でも化学組成が壊れることがなく、製造プロセスにおける上流の加工から使用することが可能です。つまり、これまでの利用用途からさらに幅を広げて応用いただくことができるのではないかと考えています。
また、透明性なども優れており、帯電防止材をメインとし透明電極まで幅広い用途で導電性を再現できることも大きな魅力です。透明度が高いことにより、従来の製造プロセス(ITOスパッタリング工法やメタルメッシュ、無機導電性ナノインクを活用する方式など)に追加で塗布することも可能であり、PEDOT/PSSを塗布することで正孔輸送層を実現することが可能となります。
当社でもまず、導電性ポリマーの特性としてよく知られている正孔輸送層を直近の用途開発として考えています。
佐々木:正孔輸送層とは簡単に言うと、電気信号を伝えるエネルギーを多く増やせるドーピング剤のようなものです。
あくまで理論的な話になりますが、スマホのタッチパネルにも上述している導電性ポリマーの仲間「透明導電性フィルム」が使用されています。スマホのように小さなものであれば電子信号が少なくとも、スムーズに信号エネルギーを伝えることができますが、60インチのテレビぐらい大型化するとどうしても反応が鈍くなるなど、操作性が落ちてしまいます。
ここに、PEDOT/PSSを塗布することで電子の量を増やし、従来では難しかった伝達が可能になるということです。つまり、すでにある技術をより強化するお助けアイテムといったところでしょうか。
佐々木: PEDOT/PSSはフィルムコーター機さえあれば簡易に塗工でき、既存設備にて自社独自の透明導電性フィルムを設計することも可能です。上記でお話したように、すでにある技術のアップデートとして。
また、スマホなどで使用されている、透明導電性フィルムの生産技術をもつメーカーは世界でも数社しかないため、どうしてもメーカー製品に頼る必要があり他社との差別化が難しいポイントとなっていました。なので、自社独自の導電性フィルムを制作・使用できることは競合へのアドバンテージにつながるのではないかと感じています。
佐々木:先に紹介したように、導電ポリマーは次世代のモノづくりに貢献する素材です。そのため、まだ研究や開発段階のものが多く、原料素材として提供する導電性ポリマーPEDOT/PSS にも細かなニーズの反映や、用途に合わせた開発が求められています。
PEDOT/PSSを製造するクレバは原液製造とポリマーインク製造の量産体制を持っている数少ない企業であり、一貫生産でコストを抑えた製品の提供、環境や用途に合わせたきめ細やかなユーザーニーズへの対応が強みです。
また、ほとんどの導電ポリマーは、海外で製造されているので交渉が難航したり、小回りが利かないなどの課題があるとお聞きします。商社ならではのマーケットに即した提案、対応力で、研究開発に寄り添った技術だけでないサポートも強みといえるのではないでしょうか。
今後の展望としては、高耐久ポリマーとしての帯電防止機能の活用にも目を向けていきたいと考えています。
具体的には半導体などのクリーンルームのESD対策に利用していただけると思われます。
帯電とは、物体が電気を帯びる現象です。身近なところでいうと、冬にセーターを脱ぐ時”バチバチっ“となる、静電気がわかりやすいかもしれません。少しでもこの不快感をなくすために、衣類を洗う洗剤の多くに帯電防止材が入っています。絶縁体に少しだけ導電性を付与することにより、静電気の蓄積を防止する薬剤です。
日常に接するほとんどのものが基本的に電荷を帯びているため、静電作用により塵や埃・花粉などを吸着し、汚れの原因ともなっています。家具の側面や壁などに埃が付着しているやつですね。そのため、最近では家具や家電などにも帯電防止材が入っていたりします。
帯電防止材としては界面活性剤や添加剤、酸化金属粒子が用いられていますが、経時によりイオン成分が失われたり、コーティングした微粒子が脱離し汚染の問題となるなど課題がありました。導電性ポリマーPEDOT/PSS」は安定性の高い材料であり、持続性のある帯電防止効果が期待されています。
セーターは難しいですね(笑)
当社が目指すのは半導体のクリーンルームのような、より強い帯電防止効果が求められる施設など建材用途です。
埃や静電気というと小さなことのように感じますが、機器の製造では非常にセンシティブな問題となっています。
近年、素子構造の微細化が進んでおり静電気により瞬間的に電流が流れると、機器の誤作動・物理的破壊、発火など様々な障害を起こす可能性があります。ますます。ESD( Electrostatic Discharge _静電放電)対策が重要になっているということです。
このようなすばらしい素材である導電性ポリマーに注目し、当社では以前より導電性ポリマーPEDOT/PSS を取り扱ってきました。直近では正孔輸送層用の用途展開進めており、上述しているような、高耐久ポリマーとしての帯電防止機能の活用にも目を向けて活動しています。
さらに、アクチュエータやセンサー部材の機能向上に貢献するフレキシブルな電気デバイスに向けたアプローチも目指しています。応用範囲が広く、可能性がある素材です。
ぜひ皆様の開発や研究のお手伝いができればと思いますので、お気軽にお問い合わせください。