INNOVATION

2025.08.05
COLUMN / ADVANCED TECHNOLOGY
コートン先生の印刷、コーティング入門 vol.3

簡単に膜を塗る方法、「簡易塗工テスト」には何がある? ~アプリケーター、スピンコーター編~

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アプリケーター 粘度の高い材料を塗りたいならこれ! 

 

先生、前回教えてもらったバーコーター、さっそく使ってみました!シンプルだけど奥が深くて、

“塗る”って想像以上に繊細なんですね。

はるきさん
コートン先生

お、いいね。それも大事な気づきだよ。

前回も話したけど、材料の性質や目的によってはバーコーターだけじゃ難しいこともあるよね。そこで今日は、「アプリケーター」と「スピンコーター」のの2つを紹介するよ。

楽しみです!今日もよろしくお願いします!

はるきさん

 

アプリケーターって、どんな塗布ツールなんですか?…名前だけ聞くとアプリ開発の道具みたいですね(笑)

はるきさん
コートン先生

ふふ、それはちょっと違うね。アプリケーターは、筐体の一部にブレード加工が施されていて、そのブレードと基材の間にできる「すき間(ギャップ)」に塗工液を流して、均一な膜をつくるツールなんだ。

ギャップが固定式のものと、ギャップが調整できるタイプがあるよ。

へぇ〜、“すき間を通す”って感じなんですね。具体的には、どうやって使うんですか?

はるきさん
コートン先生

アプリケーターは、まず基材を平滑に固定することが大事なポイントなんだ。

次に、その上に塗工液を適量垂らして、アプリケーターを基材にしっかり押し当てながら、一定の速度でまっすぐ手前に引いていく。 そうすると、アプリケーターと基材のすき間(ギャップ)に応じた厚みの膜厚が得られるというわけさ。  

なるほど!すき間ってどれくらいに設定するものなんですか?

はるきさん
コートン先生

使う材料や目的によっても違うけど、おおよそ30μmから500μmくらいが一般的かな。ただし、実際のWet膜厚はその50〜80%程度になることが多いんだ。

そんなに差があるんですね!…それって操作に慣れてないと、狙った厚さを出すの難しそうですね?

はるきさん
コートン先生

いいところに気づいたね!

まずは基材を平坦に保つこと、そして一定の荷重と速度で引くのが大切なんだ。アプリケーターは、引くスピードによって膜厚が変わりやすいからね。

さらに粘度にも注意が必要で、高粘度の塗工液ならゆっくり、低粘度のものは少し速めに引いたほうが、ムラが出にくいよ。

塗るスピードや粘度のバランスが重要なんですね!実験でやってみたくなってきました!

はるきさん

アプリケーターが向いている材料と注意点

アプリケーターはどんな用途に向いてるんですか?

はるきさん
コートン先生

そうだね、1,000~10,000 mPa・s位の比較的粘度の高い材料に向いているよ。

バーコーターだと、粘度の高い材料はレベリング(平滑化)しなくて、ワイヤの筋が残ってしまうことがあるけれど、アプリケーターなら塗工部分(ブレード)が非接触で表面幅方向が平滑だから、バーコーターのような筋が出ないんだ。

それってアプリケーターのほうがきれいに仕上がるってことですか?

はるきさん
コートン先生

うん、高粘度でレベリングしにくい材料の場合は、アプリケーターの方がきれいに仕上がることが多いね。

スジが残ると正確な評価ができないから、そういうときはアプリケーターの出番なんだ。

なるほど〜。でも、安定して塗れそうに見えて意外とクセがあるのでは?

はるきさん
コートン先生

お、鋭いね。アプリケーターが基材に接しているのは両端の2か所だけだから、基材が平坦に固定されていないと、基材とブレードとのすき間(ギャップ)がズレてしまうんだよ。

たとえば、10μmでも基材が浮いてしまうと、それがそのまま塗布ムラに繋がってしまうんだ。

えっ、たった10μmで!? それは…かなりシビアですね。

はるきさん
コートン先生

うん、だから実験現場では、簡易バキュームベッドで基材を吸着固定する方法も使われてるよ。

ただし薄いフィルムだと吸引された部分がへこんで、逆にムラの原因になることもある。意外と繊細な操作が必要なんだ。

ひえ〜。まさか基材の浮きやへこみでそこまで左右されるとは…。奥が深いです…。

はるきさん
コートン先生

そう。一方で、バーコーターは1巻ごとにバーの頂点が基材を押さえて精密に塗工液を計量しているから幅方向の精度が出しやすい。

レベリングがしっかりしていれば全幅で均一な塗膜が得やすいというメリットもあるんだ。

うーん…じゃあ、結局どっちを使えばいいんですか?

はるきさん
コートン先生

材料や用途によって使い分けるのが一番なんだよ。

たとえば、アルミ箔みたいに傷がつきやすい基材や、積層塗工をしたいときは、バーコーターの接触方式は向かないから、アプリケーターやスピンコーターが活躍する。

あっ、そうか!接触しないってことは、“繊細さん”な材料にも優しいんですね!

はるきさん
コートン先生

そうそう!あと、生産現場で使われている塗工方式、たとえばダイコーター・コンマコーター・ナイフコーターのような、ギャップ(すき間)を設けて、基材に非接触で塗工する方式だね。

そういった塗工方式に近い条件で試験したい場合にもアプリケーターを使うのが適しているというわけさ。

スピンコーター 極薄膜、粘度が低い液体を塗りたいなら!

スピンコーターって名前だけで未来感ありますね!

はるきさん
コートン先生

ふふふ、見た目どおりだよ。

スピンコーターは、基板を高速で回転させて、遠心力で塗工液を均一に広げる装置なんだ。 しかも便利なのは、回転数や回転時間を変えるだけで膜厚をコントロールできるところなんだ。

スピンコーターが向いている材料と注意点

設定を変えるだけで膜厚を調整できるって、めちゃくちゃ便利そうですね!

スピンコーターはどういった材料に向いているんですか?

はるきさん
コートン先生

数十nm〜数μmの極薄膜が得意だから、光学や半導体の評価によく使うね。

ただし、粘度が高いとうまく広がらないことがあるから、1〜200 mPa・s程度の低粘度の液体が基本だよ。

数ナノ!?スケールがケタ違い…!

便利な分やっぱり気をつけることも多そうですか?

はるきさん
コートン先生

そのとおり。まずひとつに、スピンコーターは材料の無駄が出やすいんだ。

回転によって液が遠心力で外に飛んでいくから、必要量以上に多く使わざるを得ないことがある。

なんとなく想像できます。勢いでビューンって…。見た目以上にワイルドな一面もあるんですね。

はるきさん
コートン先生

それから、液の滴下量も繊細で、多すぎると均一性が失われ、少なすぎると薄膜が形成でないことがあるよ。

さらに、液を基材の中央に垂らして回転で広げる方式だから、基本的には丸い基材が前提。四角い基材や角のある形状だと、端までうまく塗れずにムラになることがあるよ。

えっ、形まで!?便利そうだけど、材料も基材も選ぶ装置ってことですね!

はるきさん
コートン先生

うん、極薄膜を狙いたいときには強い味方だけど、使いどころは慎重にってことだね。

塗工ツールって見た目のシンプルさに反して、奥が深い世界ですね…!

はるきさん

【簡易塗工テストまとめ】どれを使えばいい?

つまり、材料や目的にあわせて使い分けが必要ってことですね!

はるきさん

バーコーター・アプリケーター・スピンコーターの特性比較一覧

ツール 方式 ウェット膜厚 粘度 膜厚設定 特徴 主な用途
バーコーター 基材と接触 数μm~100μm程度 10~1,000 mPa・s程度 ワイヤーの直径で制御 広面積塗工に強い。番手が豊富で微妙な膜厚の塗工が手軽にできる インキ、塗料、スラリー、ニスなど広範囲の液に対応
アプリケーター 基材と非接触 数十μm〜500μm程度 1,000~10,000 mPa・s程度 基材とのギャップで制御 基材にダメージを与えず塗工できる 電池電極スラリー、塗料、粘着剤、接着剤などの厚膜コーティング
スピンコーター 基材と非接触 数十nm~数十μm 1~200 mPa・s程度 基盤の回転速度と時間で制御 薄膜塗工に強い。円盤基板に適している 半導体材料、フォトレジスト、光学膜

 

コートン先生

うん、いいまとめだね! 材料の粘度や目的の膜厚、そして評価内容によって、適したツールは変わるからね。

慣れてくると「これはアプリケーターでいけそう」「この材料はスピンだな」って判断できるようになるからね。

おぉ〜…奥が深いですね。でもなんだか燃えてきました!

これで今度お客さんに聞かれても堂々と説明できそうです!(…たぶん!)

はるきさん

 

キャラクター紹介

はるきさん

日々製造現場や研究室を飛び回りながら、「なぜ?」「どうして?」を口にして先生たちに質問をぶつける、好奇心旺盛でちょっとおっちょこちょいな新人研究者。

コートン先生 

長年、コーティングや印刷技術に携わってきたベテラン技術者。
穏やかな語り口と、理論と現場の両面に精通した深い知識で、若手たちの疑問に丁寧に答える頼れる先生。

次回予告 「印刷の種類」

グラビア印刷、フレキソ印刷…名前は聞いたことあるけど、どう違うの?
印刷方式ごとの仕組みや特徴、向いている粘度、用途などをコートン先生とはるきさんがわかりやすく解説します。次回もどうぞお楽しみに!