INNOVATION

2023.09.27
CASESTUDY

CFRPリサイクルは難しい?CFRPリサイクルの現状と課題、電解硫酸法についてもわかりやすく解説!

シェアする

CFRPリサイクルとは、使用済みのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を、炭素繊維と樹脂に分離しそれぞれを再利用することです。

CFRPは、炭素繊維と樹脂を組み合わせて作られた複合材料で、軽量で強度が高く、航空機や自動車、スポーツ用品などに広く使用されています。一方で、CFRPは分解が難しく、製品寿命を終えた多くが廃材として埋め立て処分されている状況が課題となっています。今後も最終製品の軽量化、省エネルギー化を実現する素材としてCFRPの需要拡大が予想されており、CFRPリサイクルの技術確立が求められていま
す。

本記事ではCFRPリサイクルの現状や課題、各社の取り組みについて。また、近年注目される電解硫酸法によるCFRPリサイクルと電解硫酸法で利用される電極材料「ダイヤモンド電極」についてご紹介します。

CFRPとは

CFRPとは、「Carbon Fiber Reinforced Plastics」の略で、炭素繊維強化プラスチックを意味します。炭素繊維と樹脂を組み合わせて作られた複合材料で、それぞれの特徴を活かした軽くて強い素材です。炭素繊維は炭素原子が結晶化した繊維です。

「炭素」はダイヤモンドから黒鉛まで幅広い物質を構成する元素で、高温処理より炭素の分子を独特の結晶構造で強く結びつけることで、炭素繊維となります。重さは鉄の約4分の1、強度は約10倍、硬さも約7倍とまさに軽くて、丈夫な素材です。さびにくく耐熱性にも優れ、電気を伝えやすいという特性もあります。この炭素繊維と樹脂を接合させることで形状を保持する役割を果たします。

CFRPの特徴

CFRPの特徴として異方性材料であることも挙げられます。CFRPは繊維と樹脂という性質の異なる材料を組み合わせでできているため、繊維の方向や材料を変えることで、金属では難しかった形状や強度の部品を製造したり、金属部品と統合したこれまでにない形状を実現できるなど、CFRPならではの設計が実現できます。

CFRPの特徴は、以下のとおりです。

軽量:アルミニウムの約2分の1と軽量

強度:鉄の約10倍の強度

耐久性:優れた耐久性

耐腐食性:優れた耐腐食性

耐熱性:高い耐熱性

異方性材料:これまでにない形状の設計

CFRPの用途

CFRPは、軽量で強度に優れた特性を備えているため、さまざまな分野で使用されています。1970年代にはゴルフクラブのシャフト、テニスラケット、釣竿などのスポーツ用品に使用されてきました。1990年代から航空機、自動車などの輸送機用途に拡大し、更に最近ではエネルギーやインフラ用途でも活用されており、CFRPの需要は高まり続けています。

主な用途は、以下のとおりです。

航空宇宙:航空機の構造部材やエンジン部品などに使用されています。

自動車:自動車のボディや部品などに使用されています。

スポーツ用品:ゴルフクラブやテニスラケット、釣り竿などのスポーツ用品に使用されています。

医療機器:人工関節や人工骨などの医療機器に使用されています。

建築:橋梁や建築物の補強材などに使用されています。

身近な事例としては、ボーイング787の機体やトヨタのレクサスLFAのボディなどでCFRPが利用されています。

 

また、近年では風力発電用ブレードへのCFRPの適用や次世代エネルギーとして期待される水素を貯蔵する水素タンクなどエネルギー分野やロケット、人工衛星などの宇宙分野での利用も注目されています。CFRPは、今後もさまざまな分野で使用が拡大していくことが期待されています。

CFRPの材料である炭素繊維は日系メーカーが約 7 割の製品供給を担う日本を代表する先端素材です。世界の炭素繊維の市場規模は今後もさらなる成⻑が見込まれており、より広範な普及を進めていくには生産コスト低減やCFRPリサイクルが課題となっています。

CFRPリサイクルの現状と課題

CFRPは、軽量で強度に優れた特性を備えているため、上述したように航空機や自動車、スポーツ用品など、様々な分野で使用されています。しかし、CFRPは分解が難しく、さらに大きな利点である燃えにくい特性により焼却処理には膨大な燃料代がかかります。そのため、製品寿命を終えたものの多くが廃棄物として埋め立てられており、環境への負荷が懸念されています。

今後、さまざま分野でCFRPの用途を拡大させるためにもCFRPリサイクルの技術の確立が求められています。

炭素繊維は製造時にエネルギーを多く消費するため、CFRPリサイクルが実現されることにより、自動車等最終製品のライフサイクルエネルギーを大幅に削減できることも期待されています。また、CFRPリサイクルが実現されることにより高価な炭素繊維の再利用ができることでコスト低減にもつながり、より活用範囲がひろがるでしょう。

CFRPリサイクル技術

CFRPリサイクルの技術開発が進められています。CFRPリサイクル技術では、さまざまな方法が検討されていますが、そのほとんどが何らかの方法で炭素繊維(CF)を回収して再利用しようとしています。

現在、CFRPリサイクルの技術は、主に熱分解法、化学分解法、機械分解法の3つの方法が研究されています。

・熱分解法
CFRPを高温で加熱して、炭素繊維と樹脂を分離する方法です。比較的簡単に分離できる反面、炭素繊維の強度が低下する可能性があります。

・化学分解法
CFRPを薬品で分解して、炭素繊維と樹脂を分離する方法です。炭素繊維の強度を維持できる反面、薬品による環境への負荷が懸念されます。

・機械分解法
CFRPを機械的に粉砕して、炭素繊維と樹脂を分離する方法です。炭素繊維の強度を維持できる反面、分離効率が低下する可能性があります。

CFRPリサイクルは、複合材料のリサイクル研究が先行している欧州や米国を中心に取組が進んでいます。現在 rCF(リサイクル炭素繊維) 製品の製造・販売を事業化しているメーカーのほとんどは熱分解法を使用したリサイクルプロセスを行っています。

その他、近年ではさまざまなCFRPリサイクル技術の開発が模索されており、マイクロ波を活用したCFRPリサイクルや電解硫酸法のCFRPリサイクルの実証も進んでいます。

CFRPリサイクル電解硫酸法

近年、注目を集めている電解硫酸法についてご紹介します。

電解硫酸法は、硫酸を電気分解して生成する強酸「電解硫酸」を用いて、CFRPを分解する方法です。この技術の特徴は、全ての樹脂を分解できる、リサイクルした炭素繊維の強度が低下しにくい、炭素繊維を連続繊維としてもリサイクルできる3点です。

これまでのCFRPリサイクルでは、炭素繊維を取り出す過程で繊維の切断や損傷などが生じてしまい、高性能な用途に使用できる状態での回収が難しい状況でした。

電解硫酸法は、全ての樹脂を分解できるため元の強度を保った状態での炭素繊維の取り出すことができたことが報告されています。

 

電解硫酸法は、まだ実用化前の技術ですが、今後の技術開発によってはCFRPリサイクルの普及に大きく貢献することが期待されています。日本では、旭化成株式会社が電解硫酸法によるCFRPリサイクル技術を開発・実用化をリードしています。

CFRPリサイクルへのダイヤモンド電極の活用

CFRPリサイクルの実用化が期待される、電解硫酸法ですが、電解硫酸は現在半導体の洗浄工程フォトレジストの除去などで実用されています。

電解硫酸を生成するためには、広い電位窓をもつ電極が必要となりダイヤモンド電極が使用されています。ダイヤモンドは酸に対し優れた耐性をもっており、強力な電解硫酸でも損耗せず使用できます。

CFRPリサイクルの電解硫酸法の確立には高品質な用途に合わせたダイヤモンド電極が必要となります。

キャプション:ダイヤモンド電極

ダイヤモンド電極による環境負荷の低い循環型電解硫酸生成システム

合成ダイヤモンドベンチャーのDIAMは令和4年度予算「成長型中小企業等研究開発支援事業」 (Go-Tech事業)に採択され、ダイヤモンド電極による環境負荷の低い循環型電解硫酸生成システムの開発を行っています。本事業では自動車の軽量化・電装化に必要な樹脂めっきを実現するための電解硫酸生成システムの開発を行っていますが、CFRPリサイクルにおいても本技術を応用できると考えビーカーテストの実施し、炭素繊維の分離ができることを実証しました。

DIAMではダイヤモンド電極によるCFRPリサイクルのテストサンプルを募集し、自動車部品など用途毎のCFRPテストを拡充、ダイヤモンド電極の利用によるCFRPリサイクル技術の確立を目指しています。

 

キャプション:ダイヤモンド電極による電解硫酸法でのCFRPリサイクル

DIAMについて

DIAM は合成ダイヤモンドの成膜・製造の技術を提供します。ダイヤモンド電極は金属などの電極材料と異なり、合成条件のパラメーターコントロールにより、用途に合わせた成膜が可能です。

10年にわたる成膜条件の研究により、耐久性(厚いダイヤモンド膜)・高い導電性や大面積での安定的な成膜ノウハウを確立しました。ニーズに合わせた特性の異なるダイヤモンド電極の受託成膜や量産が可能な企業は未だ世界でも数社しか存在しておらず、今後も高まる需要に対し生産体制を増強し量産を目指します。

「ダイヤモンド電極とはどのようなものなのか」「一度実験がしてみたい」という要望に応え、標準品も販売しています。

DIAM株式会社

本社:千葉県千葉市花見川区三角町65-1

URL:https://dia-m.co.jp/

まとめ

CFRPは金属に代わる軽くて強い素材として今後さらなる需要・用途の拡大が期待されています。一方で、廃棄方法やコスト面でもCFRPリサイクルの技術の確立が求められています。技術開発は国内外で進んでおり、熱分解法を使用したCFRPリサイクルプロセスの一部ではPCなど製品リサイクル化も成功しています。しかし、強度を保った状態でのCFRPリサイクル技術はまだま難しいとされています。

日本では電解硫酸法によるCFRP分解が実証されており、高いレベルでの炭素繊維の分離が実現できることから、今後のCFRPリサイクルの技術確立が期待されます。

製品に関するお問い合わせ

松尾産業株式会社 アドバンスドテクノ事業部

E-mail: advanced-t@matsuo-sangyo.co.jp

TEL 045-471-3963 / FAX 045-471-4950

〒222-0033 横浜市港北区新横浜2-3-8 KDX新横浜ビル1F