技術講演のトップは、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 瓦家 正英氏により「色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池からペロブスカイト太陽電池まで」と題した講演が行われた。
現行の太陽電池(シリコン型)に加え、低コスト大規模生産が可能なペロブスカイト太陽電池を取り上げ、それぞれの性能や変遷について社会背景とともに紹介、基礎構造から制作技術やプロセスについても説明された。瓦家氏は日本発のペロブスカイト太陽光発電という材料、技術の可能性と合わせて、実用化に向けた生産・製造面での課題を示唆。資金、スピード面での海外勢に対する遅れについても危惧も述べた。
ペロブスカイトに繋がるまでに色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池とまだ生産、商業ベースにはなっていない技術を経てきた歴史、これらの背景・課題を理解し、今後前進する必要性を考えさせられる講演となった。
【講演者プロフィール】
地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 瓦家 正英 様
1961年、兵庫県神戸市生まれ。関西ペイント㈱~ペクセルテクノロジーズ㈱~御国色素㈱、現在、神奈川県立産業技術総合研究所に勤務。プロダクトイノベーション協会(シニアアドバイザー)、東京大学先端科学技術研究センター(客員研究員)、有機系太陽電池技術研究組合(シニアリサーチャー)
次に、CNコンサルティング事務所所長の千野 直義 氏は、「コーティングの基礎的な理解と塗工手法」と題し、コーティングの基礎的な理解と塗工手法について詳しく解説。ウエットコーティングの基礎では、ムラにならずに塗布する方法や市販の濡れ試薬による測定方法を紹介、単層塗布技術や多層同時塗布技術と言ったテーマにも言及した。ものづくりをする上でベースになるコンバーティング、コーティングという基礎技術の基本から各塗工方法の利点、弱点、取り扱いにおける注意点を説明するなど、初心者でもわかりやすい講演となった。
【講演者プロフィール】
CNコンサルティング事務所所長 千野 直義 氏
1974年富士フィルム入社、富士宮工場レントゲン製造部にて、水系同時2-3層塗布の高速化、塗布故障(ハジキ、ブツ、スジ)故障対策に従事。その後、有機溶剤系磁気テープ材料塗布ウェブテンションドダイ(WTD)による超高速塗布、同時重層塗布技術開発・実用化による磁気テープの新製品化に従事。その後、コンバーターを経てCNコンサルティング事務所設立。平成元年 大河内記念技術賞 受賞、平成2年度 化学工学会賞受賞
ビックケミー・ジャパンのシニアソリューションナビゲーター 若原 章博氏は「塗材側から見る塗布欠陥のメカニズムとソリューション」と題して講演、ビックケミーという世界最大の分散剤、添加剤メーカーの立場からコーティング解決事例を紹介した。
コーティング液の塗布・乾燥における欠陥として、基材への濡れ不良、泡・ピンホール、塗布面の平滑性・均一性、形状の保持などを挙げ、これらの欠陥発生のメカニズムと対応について、添加剤による解決策と選定におけるポインを紹介した。さらに、レオロジー(物質の流れと応力の関係を扱う学問分野)に関連する問題にも言及。今後の開発の方向として、SDGs達成の観点からバイオベースの添加剤の開発に触れ、今後の展望も語られた。
コーティングにおける分散剤、添加剤の役割、機能について重要性を感じる講演となった。
【講演者プロフィール】
ビックケミー・ジャパン株式会社 シニアソリューションナビゲーター 若原 章博 様
名古屋大学 大学院工学研究科 修士課程 修了後、大手塗料メーカーにて自動車塗料の分野で顔料評価、上塗り・中塗りの設計およびライン展開に従事。その後、大手学習塾にて総務・営業スタッフを経て、1994年ビックケミー・ジャパン株式会社に入社。入社後は約20年間、塗料・インキ・カラーフィルター用添加剤の技術営業および製品開発に従事。粒子の分散安定化や、表面調整・消泡・レオロジーを専門とする。
最後に、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)再生可能エネルギー研究センター水素エネルギーチーム主任研究員 長澤 兼作氏が講演。「グリーン水素生成・活用の為の水電解、水素エネルギーキャリア合成技術」と題し、再生可能エネルギーを用いた水電解による水素製造プロセスの要素技術・部材技術を紹介した。また、水素エネルギーの持続可能性を高める水素エネルギーキャリアの合成技術として有望なトルエン-メチルシクロヘキサン有機ハイドライドの利用について、加工・製造の観点から紹介。水素エネルギーキャリアの実用化が進むことで、水素の貯蔵・輸送・利用が容易になり、水素エネルギーの普及が加速することへ期待を示した。
【講演者プロフィール】
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)再生可能エネルギー研究センター水素エネルギーチーム主任研究員 長澤 兼作 氏
2010年横浜国立大学博士課程後期修了。博士課程より2014年まで理研ベンチャー、電気通信大学等で燃料電池関連の研究に従事。2015年より横浜国立大学でエネルギーキャリア合成、水電解の研究に従事し、2023年4月より現職。
講演者それぞれから高い専門知識をご教示いただくことで、コンバーティングの将来が明確に浮かび上がり、今後の展望に対する示唆が得られた『COVERTING FESTA Vol.1』。
企画協賛に携わった、松尾産業 アドバンスドテクノ事業部の西岡は以下のようにコメントしている。
「講演終了後のネットワーキング(交流会)は、会場参加のお客様、講演者、関係者を含めて、ほぼすべての方に参加いただいた盛況な会となりました。交流会では講演中では聞けないような質問が飛び交い、談笑が絶えず、活発な情報交換が行われ、参加者の笑顔が印象的でした。本イベントを通し、コロナ禍では実施できなかったリアルでの情報交換の重要性を改めて確信し、このリアルな場所こそ新しい技術、イノベーションが生まれるキッカケをつくれるのではないかと実感できた1日となりました」
コンバーティング業界において新たなる一歩を踏み出すきっかけになるイベントとして2024年度の第二回の取組も期待される。