ダイヤモンドは本来は絶縁体であり電気を通しません。しかし、ダイヤモンドにボロンなど不純物をドープすることで導電性を付与し電極として利用することが可能です。ダイヤモンド電極は電位窓が広く、通常電気分解しにくい物質の酸化や還元反応が優先できるため、従来方法では難しかった物質の分解や合成を実現します。
主な用途として、成分分解による各種溶液・廃液の水処理、オゾン水や電解硫酸の生成などがあります。ダイヤモンドの持つ化学的安定性や特異な電気特性質を活かし、強酸や宇宙環境など極限環境でも使用できるなど、新しい工法開発や環境負荷低減への貢献も期待される新しい電極素材です。
ダイヤモンド電極には以下の特徴があります。
・他の物質と反応しにくく、化学的に安定している
酸、アルカリ、酸化剤、還元剤などの化学物質に対して腐食や変質を受けにくいため、電気化学的な反応に使用される電極として広く用いることができます。
・耐久性に優れている
ダイヤモンドは自然界に存在する物質の中で最も硬い物質です。そのため、ダイヤモンド電極は摩擦や衝撃に強く、長期間使用することができます。
・電力を制御する力に優れている
ダイヤモンド電極は非常に硬いため損傷に強く、さらに安定性が高いため、大電力に耐えることができます。従来の電極より圧倒的に電力を制御する力に優れており、電力損失を大幅に軽減できます。
・熱伝導性に優れている
ダイヤモンド電極の熱伝導率は高く、白金70に対してダイヤモンドの熱伝導率は1000~2000と10倍以上です。そのため、燃料電池や水電解装置など電気化学的な反応で熱を発するデバイスに使用した際、効率的に放熱することができます。
・広い電位窓
電位窓とは、電極が電気化学反応を起こすことが可能な電位範囲です。
ダイヤモンド電極の電位窓は広いため、従来方法では困難であった物質の分解・合成が可能です。
例えば、水を直接電気分解することでオゾンを発生させることができます。また、廃液のBODやCODといった水質汚染の指数を低減することが可能です。
ダイヤモンド電極は以下の分野で使用されています。
以下の項目で詳しくダイヤモンド電極の利用用途を紹介します。
ダイヤモンド電極は、水に電気を流すことで、水中の汚染物質を分解することができます。ダイヤモンド電極を使った直接電解技術は、水処理、排液処理、有機物の分解を可能にします。
廃水には生分解性の低い有毒物質や残留薬物などの持続性物質など多くの種類の汚染物質が存在し、製造工程や商業的な利用で発生・蓄積されるケースも少なくありません。
ダイヤモンド電極は電気分解時の電位窓が広いことから、オゾンやOHラジカルといった酸化力の強い物質が溶液中に生成することで、汚染物質を除去(分解)します。
ダイヤモンド電極は、他の電極に比べて、耐久性があり、電気抵抗が低いため、効率的に水を浄化することができます。さらに、ダイヤモンド電極は、薬品を使用しないため、環境に優しい水処理方法です。
ダイヤモンド電極の水処理への応用は以下のような利点があります。
ダイヤモンド電極は、水処理技術の将来を担う技術として期待されています。
ダイヤモンド電極を用いた水の電気分解によってオゾン水を安定的に生成することができます。
オゾンは、自然界ではフッ素に次ぐ、非常に強い酸化力を持っています。水中の細菌やウイルス、バクテリアなどの有害物質を殺菌、水中の残留塩素やトリハロメタンなどの有害物質を分解することもできます。
この強力な酸化作用は、殺菌・脱臭・漂白などに利用でき、世界中の医療機関や食品工場、保育園など、様々な施設で殺菌や感染症対策のために使われています。
従来オゾン水の生成には大きな装置を要するなど利用に対して制限がありましたが、ダイヤモンド電極は水を直接電解することでオゾンにするため、ユニットを小型で簡素化することが可能です。直接電解によるオゾン水を生成できるので材料は水だけで生成できます。
生成効率が高いことから、流水をオゾン水にすることも可能となります。また、ダイヤモンド電極は、薬品を使用しないため、環境に優しいオゾン水の生成方法です。
パナソニックは家庭向け「オゾン水の生成デバイス」の技術にダイヤモンド電極を利用し、全自動おそうじトイレ「アラウーノ L150シリーズ」でも採用されています。
今後もダイヤモンド電極を利用したオゾン水の生成の活用が期待されます。
ダイヤモンド電極を用いて生成できる電解硫酸は、半導体や自動車の製造工程などで課題となっている毒性や多量な廃棄物などの課題を解決する代替技術として期待されています。
電解硫酸とは、硫酸を電気分解することにより生成する、非常に強い酸化力を持つ物質です。電位窓の広いダイヤモンド電極で硫酸を電気分解すると強力な酸化反応を起こし、過硫酸(電解硫酸)を生成することが可能です。ダイヤモンドは酸に対し優れた耐性をもっており、強力な電解硫酸でも損耗しません。この技術を半導体や自動車の製造工程で代替技術として応用することが期待されています。
用途:半導体洗浄、樹脂めっきの前処理
技術:電解合成 過酸化物 ( 過硫酸、過リン酸) 有機合成、CO₂からの有用物質合成(ギ酸、アルデヒド)
貢献:環境にやさしい代替技術
半導体洗浄
半導体製造工程において、ダイヤモンド電極を利用して作った電解硫酸液を使用して、半導体ウェーハ表面の洗浄が可能です。
また、電解硫酸液は循環利用が可能なため、従来の方法に比べて利用する液が少なくなり、廃液も減少します。電解硫酸液はダイヤモンド電極でのみ生成できます。
樹脂めっきの前処理
ダイヤモンド電極を利用して作った電解硫酸液を使用して、樹脂めっきの前処理を行うことができます。
樹脂めっきとは樹脂部品に金属の薄膜を被覆することを言います。樹脂は基本電気を通さない為、めっきする前に電気を通すための膜を樹脂にコートする必要があります。しかし、樹脂はそのままの表面状態だと、ニッケルなどの密着力の強い導電膜をコートすることが難しいため、表面を凸凹にしたり、不要な物質のみを取り除くなど、樹脂の表面に何らかの処理を施す必要があります。
現状その処理として、六価クロムや過酸化マンガンなどの物質が使われていますが、これらの物質は毒性が強い、重金属を含むなど、環境保全の観点から避けた方が良い物質となっています。この処理が、ダイヤモンド電極を利用して作った電解硫酸を用いることで代替可能です。
今後もダイヤモンド電極を利用した電解硫酸の活用が期待されます。
半導体の素材として従来使用されている、シリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウムに比べ、ダイヤモンド電極は放熱性や耐電圧性に優れています。
その特徴から、次世代半導体のパワーデバイスとして、以下の通り様々な用途で使われることが期待されています。
・太陽光発電などの再生可能エネルギー
・情報通信処理の向上
・電気自動車やハイブリッド車などのバッテリー
・燃料電池
・電子機器
・衛星での利用 等
高い潜在能力を持ちながら普及に至らなかったダイヤモンド電極ですが、その製造方法が確立されてきたことで、近年急速に進歩を遂げています。
現在もダイヤモンド電極の研究開発が世界中で活発に行われており、日本でもダイヤモンド電極の製造技術の開発や、ダイヤモンド電極を用いた電気自動車のバッテリーの開発など、多くの研究機関や企業が取り組んでいます。
技術革新によりダイヤモンド電極は今後広く普及することが期待されています。
DIAM株式会社
〒262-0011千葉県千葉市花見川区三角町65-1
TEL:043-216-2030
FAX:043-216-3858
E-mail:advanced-t@matsuo-sangyo.co.jp