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2024.07.29
CASESTUDY
欧州ELV 指令に対応、スコープ3のCO₂削減に貢献 

リサイクル樹脂|エンプラ、スーパーエンプラ

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樹脂(プラスチック)はその特性や種類によって私たちの身の回りのほとんどの製品に使われ、普段の生活に欠かせない材料です。
近年、地球温暖化や海洋プラスチック汚染などの環境問題が深刻化する中、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが世界中で加速しています。その中で、リサイクル樹脂は、資源の有効活用と環境負荷低減に貢献する重要な役割を担っています。

さらに、2023年7月、欧州委員会はELV指令の見直し案を公表しました。リサイクル樹脂の利用促進に大きな影響を与えることが予想されます。
欧州ELV指令やCO₂削減の意識の高まり、さらに原材料高騰もあり、CO₂排出量を大幅に削減でき、かつ安価なリサイクル樹脂が注目されています。この記事では、樹脂(プラスチック)のリサイクル方法や、欧州ELV 指令に対応しCO₂削減に貢献するリサイクル樹脂について紹介します。

リサイクル樹脂について

リサイクル樹脂とは、廃棄されたプラスチック製品を原料として新たに製造された樹脂です。リサイクル樹脂は従来の新品樹脂(バージン材)と比べて多くのメリットがあり、以下の理由から注目されています。

 

環境問題への意識の高まり

地球温暖化などの環境問題が深刻化する中、CO₂排出量単独第3位のインドが2070年までにカーボンニュートラル達成を宣言するなど、これまでに154ヵ国がカーボンニュートラル宣言をしており、環境に対する意識がこれまで以上に高まっています。

自動車業界においても、欧州ELV指令にて各自動車メーカー、ティア1も早急な再生材使用の対応を迫られていることから、リサイクル樹脂は大きな注目を浴びています。

 

原材料高騰、BCP対策

近年、ユーティリティーコスト上昇などの理由から、樹脂価格の高騰が続いており、より安価で供給可能なリソースを求める企業が増えています。

リサイクル樹脂は、環境に配慮した製品でありながら、バージン樹脂と比べて石油価格高騰の影響を受けにくく、コスト競争力が強くなります。

 

廃棄物処理の削減

プラスチックなどの廃棄物は、焼却や埋め立てなどで処理を行う方法が一般的ですが、これらの方法はコストがかかります。リサイクル樹脂は廃棄物から新たな製品を製造するため、環境の観点から廃棄物処理、また処理コストの双方を削減することができます。

樹脂(プラスチック)のリサイクル方法

樹脂(プラスチック)のリサイクル方法は主に3つ、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル、そしてマテリアルリサイクルがあります。

 

ケミカルリサイクル

ケミカルリサイクルとは廃棄プラスチックに化学的処理を行い、化学原料として再利用する方法です。従来のマテリアルリサイクルではリサイクルが困難だったプラスチックも、ケミカルリサイクルによって再生することが可能になり、高機能プラスチック製品の原料として利用することができます。

 

サーマルリサイクル

サーマルリサイクルとは、廃プラスチックを燃焼させて発生する熱エネルギーを回収して利用する方法です。発電やボイラー燃料として利用することができます。ただし、燃焼時にCO2を排出するため、環境負荷が低いマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルと比べると優先順位は低くなります。

 

マテリアルリサイクル

廃棄物を再び製品の材料として再利用する方法です。リサイクルの際に発生するエネルギー消費量が少ないため、環境負荷が少ないというメリットがあります。マテリアルリサイクルは、同じ物にリサイクルされることもあれば、異なる製品にリサイクルされることもあります。

日本はプラスチック全体の21.4%をマテリアルリサイクルしています。皆さんに馴染みがあるのは、PETボトルのリサイクルです。PETボトルはキャップやラベルを含めれば既に86.0%がリサイクルされていますが、マテリアルリサイクルの約30%がPETボトルです。

 

ポストインダストリアルリサイクル(PIR)とポストコンシューマーリサイクル(PCR)

プラスチックのマテリアルリサイクルには、リサイクルする原料や分別元によって、ポストインダストリアルリサイクル(PIR)、ポストコンシューマーリサイクル(PCR)に分けられます。

 

・PIR(ポストインダストリアルリサイクル)

PIRとは、市場に出る前の製品製造工程で発生した工程端材をリサイクルすることです。ポストコンシューマーリサイクル(PCR)と異なり、製品として消費者に渡る前の段階で発生する材料を対象としている点が特徴です。製品として使用されていない材料を対象としているため、品質や物性が比較的安定しているというメリットがあります。

 

工程端材にはどのようなものがある?

工程端材スプール,ゲート,ランナー

プラスチックの工程端材には、射出成形機から注入されたプラスチックの流路であるスプールや、スプールから成形品までをつなぐ流路のランナーなどがあります。

 

・PCR(ポストコンシューマーリサイクル)

市場で使用済みの製品を回収して、リサイクルすることです。PIRと比べると物性、品質は劣化しますが、近年、環境問題や資源問題への意識の高まりから、PCRの重要性がますます認識されています。また、欧州ELV指令の影響により、自動車業界で非常に注目されている材料です。

欧州ELV 指令とリサイクル樹脂の関係

欧州ELV指令は、自動車産業における環境負荷を減少させ、持続可能な社会を目指すための具体的な目標を設定しています。その中で、リサイクル樹脂は重要な役割を果たしています。

欧州ELV指令とは

欧州ELV指令(End-of-Life Vehicles Directive)は、欧州連合(EU)が2000年10月に発効した廃自動車指令です。廃棄される自動車の適切な処理を確保し環境負荷を削減する目的で施行されました。そこにはリサイクル材の活用と具体的な比率が示されています。

2023年7月に、自動車の車両設計から生産、廃車までの過程における循環性向上に向けた自動車設計・廃車管理における持続可能性要件に関する規則案を発表しました。規則案の内容は以下の通りです。

 

  1. 新車製造において使用する樹脂の25%をPCR材(再生材)にし、その内25%を廃車由来とする
  2. 欧州マーケット向けでは新車製造の25%のPCR材(再生材)を使わなければならない。
  3. 2030年までに上記を達成する必要がある。

 

欧州ELV指令により、リサイクル樹脂はますます注目されると考えられます。

リサイクル樹脂の用途

エンプラ、スーパーエンプラなどのリサイクル樹脂は、自動車、3Dプリント、半導体テストソケット、プローブガードなどに使用されています。特にスーパーエンプラは150℃以上の過酷な環境下でも長時間使用できるため、自動車のエンジン付近にも活用されています。

リサイクル樹脂 自動車の用途例▼

リサイクル樹脂の用途,自動車

・自動車部品の用途

ヘッドランプ部品、テープランプ部品、ルームランプ、マップランプ、エンブレム、メーターパネルなど →PC

ワイヤーハーネスコネクター →PBT

駆動、制御、冷却、燃料、点火・電気、照明など →PPS

エンジン用部品 →PPS, PEI

ベアリング、シールリング、ギアなど →PEEK

 

・3Dプリント用樹脂

→PEEK、PEI、PPS, PCなど

 

・半導体テストソケット、プローブ用樹脂

→PEEK、PEI、PPSなど

 

エンプラ、スーパーエンプラについて

熱可塑性樹脂は3つに分類されます。汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック(通称:エンプラ)、スーパーエンジニアリングプラスチック(通称:スーパーエンプラ)に分けられます。エンプラ、スーパーエンプラはより各物性に優れており、過酷な環境下に耐えうる樹脂を指します。

 

汎用プラスチック

汎用プラスチックとは、100℃未満で変形が始まるプラスチックのことです。熱可塑性樹脂のなかでも加工がしやすく比較的安価です。

・汎用プラスチックの種類

ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)ポリ塩化ビニル(PVC)など

 

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)

エンジニアリングプラスチックは略してエンプラと呼ばれており、100度以上の耐熱性を持つ樹脂です。エンジニアリングプラスチックの特徴は、高温の過酷な工業的環境下でも耐えられる強度にあります。

・エンプラの種類

ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン(PA)など

 

スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)

スーパーエンジニアリングプラスチックは、150℃以上の耐熱性を持つ、エンジニアリングプラスチックよりさらに耐熱性・機械的強度が非常に高い樹脂のことです。

150℃以上の高温の環境下でも長時間使用できるため、自動車のエンジン付近にも活用されています。特に半導体製造工程など高い耐久性が求められるハイエンドなマーケットで使用されています。近年は3Dプリント業界など、新規分野でスーパーエンプラを扱う企業が増えており、さらなる市場拡大が期待されます。

・スーパーエンプラの種類

ポリフェンレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、各フッ素系樹脂など

お問い合わせ先

松尾産業株式会社 アドバンスドテクノ事業部

E-mail: advanced-t@matsuo-sangyo.co.jp

TEL 045-471-3963 / FAX 045-471-4950

〒222-0033 横浜市港北区新横浜2-3-8 KDX新横浜ビル1F